光の救世主
「光の賢者よ闇を照らせ!“フラッシュ“!」
兵士たちの頭上に現れたカレアは詠唱を終えると、左手をさらに上にいるドラゴンたちにむかってかざした。その手はまばゆく光り、やがてその光はドラゴンたちを包んだ。
「やったか!?」と勝利を確信する兵士たち。しかしカレアは険しい顔のまま兵士たちに話しかける。
「今のはただの目眩まし!ダメージはないわ!」
「そ、そうなのか!?」
「今のうちに避難して!この数のドラゴン、とてもじゃないけどこちらの戦力じゃ太刀打ちできない!」
鬼気迫る顔のカレア。彼女の表情や怪我の様子を見て、兵士たちはまたも顔が青ざめる。空に群がるドラゴンたちは地上の兵士と同じかそれ以上の数が揃っている。カレアの言うとおり、戦力的にはかなり不利であることは明確であった。
「いや、でも俺には家族がいる。妻や娘が家で待っているんだ。
このまま俺だけ逃げてたまるか!」
一人の兵士が声をあげた。その男は剣をドラゴンの群れに向け、まっすぐな目でその先を見る。
「やってやるさ・・たとえそれが無理難題であったとしても、俺はやる!」
男の発言に他の兵士たちも動かされた。彼らはみな剣をかまえ、男と同様に空にかかげる。
「そうだ!俺たちは城の兵士、ここで逃げるわけにはいかない!」
「可能性が0.1%でもあるなら、戦う意味はある!」
全員の意思が固まったその時、ドラゴンたちの目は慣れ始めた。バイスは目をこすり、下を確認する。
「おいおい、せっかく生き残るチャンスだったのに無駄にしちまったなぁ!かわいそうなカレアちゃん、なぁ!?」
カレアの術が無駄に終わったことを哀れむバイス。しかしカレア本人はまだ諦めていなかった。
(これが彼らの道・・彼らの意志・・!)
圧倒的戦力差の前でも、目的のために前をむいて立ち上がる。剣をかかげた彼らの姿にカレアは胸をうたれた。
(彼らの思いを無駄にはしない、させちゃいけないんだ!)
「みんな!私が魔法でやつらを地上に叩き落として見せるわ!そのあとに一斉に切りかかって!」
「「おう!!」」
カレアの作戦に賛同する兵士たち。カレアは覚悟を決め手のひらをドラゴンの群れに向けた。
しかしその手の遥か先にいるドラゴンの群れは、すでに攻撃の準備を終えていた。そのすべてが口をひろげ魔力を放出する体勢をとっている。動きが止まるカレア。ニヤリと笑うバイス。
「叩き落とす?この数を?お前一人で?どうやって?
お前が詠唱を始めた瞬間、こいつらの攻撃をアムールに向けて放つ。」
「くっ・・!」
「ま、始めなくても放つがな。
撃て。」
バイスが指を鳴らすと、ドラゴンたちは口に溜めた炎の魔弾を兵士に向けて一斉に放った。カレアの頭によぎる「全滅」の文字。
(終わっ・・・)
「“ 光刃 “」
カレアの目の前で、全ての炎が音をたてて消滅した。兵士たちもカレアも、バイスも目を疑った。何が起きたのか分からない。
「すみません、こんなに遅れて。」
前から声がし、カレアは空に向けていた視線をおろした。自分の目の前では一人の男のまわりを神々しい光が照らしていた。
そしてその男に、カレアは見覚えがあった。激しくなる己の鼓動で、カレアは確信を持った。
「田天・・・!」