失われたルシフェルの力
「へっ?」
「何を言ってる!この方は正真正銘ルシフェル様・・」
「・・いや、間違いない。こいつはルシフェルのフリをした誰かだ。」
「・・・・。」
田天はハァと大きなため息をついた。やっと正体を分かってもらえたことと、死を回避できたことによる安堵からだった。
ゆっくりと田天に近寄る魔物。険しい顔で田天をのぞき込む。
「・・本当にルシフェル様ではない・・のか?」
「ずっとそう言ってたじゃないか・・。」
「たしかに態度や喋り方が違うし、明らかに弱すぎるし・・。」
「やっと信じてくれました?」
「・・・だとしたら、誰だ貴様?」
いきなり態度を変える魔物。黒目が小さくなる。
「く、詳しく話すんで落ち着いてください・・。」
田天と魔物は近くの岩場に座った。そして田天は自分の現実世界での生活、夢での出来事のことを魔物に詳しく話した。それを少し離れた岩場に腰かけて聞くフレイラ。
魔物は腕を組みながら、真剣に聞いていた。
「・・なるほどな。事情は分かった。お前はルシフェル様ではなく、田天という人間なのだな?」
「分かってもらえて嬉しいよ。」
「だとしたら、本物のルシフェル様はどこにいるのだ?」
「え?いやぁそれは・・わからないけど。」
「ふむ・・その二匹の悪魔から聞くしかないようだな。しかしそいつらの正体がわからん・・。」
「私に心当たりがあるぞ。」
黙って話を聞いていたフレイラが初めて口を開いた。彼女の方を向く田天と魔物。
「なに!?本当か?」
「ああ。おそらく私が所属している”悪魔軍”の七人の戦闘集団”セブン・スペルズ”のメンバーだろう。
私も詳しくは知らないが、やつらの一人に「あらゆる空間に入り込むことができる」のがいると聞いたことがある。もう一人の情報は知らないけど、おそらく七人のうちの一人だろうな。」
(悪魔軍・・・セブンスペルズ・・・)
改めて自分が地球とは違う異世界に飛ばされたことを実感する田天。
(やっぱり本当に異世界なんだ・・夢じゃないんだ・・・)
「よし!ならそのセブンスペルズとかいう連中を見つけ出して吐かせればいいわけか!」
意気揚々と立ち上がる魔物。それを見てやれやれという反応を見せるフレイラ。
「吐かせるってあんた、どうやって?」
「決まっているだろう?ルシフェル様の力を使った田天が、やつらを生け捕りにするんだよ。なんと容易い。」
「はたしてそううまくいくかな?その男がルシフェルの力を使えると思っているのか?
さっきの戦いを思い出してみな。」
「あっ・・。」
「・・・・。」
黙り込む魔物の横で、下を向く田天。たしかに今の田天はルシフェルになったとはいえ、その力の使い方がわからない。先ほどフレイラにつけられた傷を見ながら考え込む。
(俺がルシフェルなのはその外見だけ・・。強さは引き継いで・・いないのか・・。
やっぱり俺は・・何処へ行ってもダメダメな・・)
「思っているぞ。」
「!!」
田天は、そう強く言い放つ魔物の方を見た。腕を組んだままの魔物は田天の方を見てにやりと笑う。
「思い出してみろよ、先ほどの戦いを。本当に田天が人間の時のままの強さだとしたら、フレイラの斬撃でくたばっているはずだろ?」
「・・・。」
「それはもともとその体が丈夫なだけだろ?」
「いいや違うな。ルシフェル様はたしかに偉大で最強なお方だが、素の体は人間や天使族とさほど変わらない。だから体中につねに魔力を張り巡らせオーラのようにして、防御力を高めていると言っていた。
つまりさっき田天は「無意識に」その力を使ったというわけだ。だとしたらこれから他の力を使えるようになってもおかしくはないだろう?」
「・・・なるほどな。」
「ルシフェルの力を・・・使えるかもしれない・・?」
魔物は田天の肩をつかんだ。ヒィと驚く田天に魔物は語り掛ける。
「正直俺はあまりお前が好きではない。不可抗力とはいえ、偉大なルシフェル様の体をのっとっているのだからな。」
「いやべつにのっとってるわけじゃ・・」
「だがここは協力しようじゃないか。俺はルシフェル様を取り戻すために、お前は元の世界に戻るために、お互いの目的の為に手を組もうじゃないか!」
目を輝かせて喋る魔物とは対照的に、下を向く田天であった。
「・・気持ちはありがたいけど、元の世界に戻ってもどうせ・・・また絶望するだけだし・・。」
田天にとっては元の世界に戻ることは決して正解とは言えなかった。戻っても悪い事しか待っていない。そう確信していたから。