竜の大群
「・・・。」
爆発によって巻き起こる砂ぼこり。そのなかでバイスは遠くの空を見上げていた。
「そろそろだな。」
一人でそうつぶやくバイス。その場にまた座りこみ、何かを待つようだ。砂ぼこりも止み、緩やかな風だけが残った。その風に吹かれながらバイスは、カレアがいた場所をチラッと見た。そこはすでに爆心地になっており、彼女の姿は見えない。跡形もなく吹き飛ばしてしまったのだろう。そう考えて彼は再び目線を空にやる。
だが、彼の予想は外れることとなった。頭上にかすかな魔力を感じたバイスは腕で顔を隠しながら真上を見る。思った通り上からは雷魔法のボルテクスが接近しており、防御や回避もむなしく雷はバイスの全身をとらえた。
雷が落下して数秒後。吹き荒れる砂の中でバイスは目に血を走らせながら立っている。上や横を見るが誰もいない。
「・・・・!
・・そこか。」
前を向いたまま右手のみ後ろに向けて、炎の魔法ボルケーンを放つ。炎の渦は彼の後方の『何者か』に向かい直進するが、上空に飛ばれ避けられてしまう。
「詠唱しなくていいからって、少々雑になってるんじゃないかな?バイス。」
「・・・。」
バイスが振り返ってみると、やはりカレアがいた。浮遊している彼女は少々苦しそうな顔をしているが、それでもどこか余裕な態度が見てとれる。
彼女の服装が赤いローブから、黒のショートパンツと黒のタンクトップになっていた。爆発の直前にローブや上着などを脱ぎ捨てなんとか脱出したのだ。
「さぁ、第二ラウンドといこうじゃないか!」
はりきるカレアを見上げながらバイスはうつむき肩を震わせる。なんとも不気味な様子。それが五秒ほど続きカレアは首をかしげた。
すると震えが止まり、今度は「ハハハハ!」と笑いながら顔を上げた。狂気に満ちたその顔で語り始めるバイス。
「やるじゃないか!だがもう遅い!
援軍が到着したみたいだぞ!?」
カレアはパッと後ろを振り向く。そこには・・
何十ものドラゴンがアムールに向かって飛行している姿が見えた。さまざまなサイズのドラゴンたちが、まるで壁のようにこちらに押し寄せてくる。
「なんなんだこれは・・!」
「俺のペットたちさ。みんな好戦的でな、やつらが街に到着するのが楽しみだぜ!」
絶望的な顔になるカレア。興奮がおさまらないバイス。
「そおら!」
バイスはボルテクスを放ち空中のカレアを狙った。とっさに避けるカレアだったが、雷は右腕に直撃してしまう。
「ああああ!」
そのまま地面に落とされた。そんな彼女にバイスは追撃もせず話しかけた。
「侍はいなくなりマーカスは城で俺が仕留めた。そしてお前はこのざまだ。
さぁ、誰がアムールを守るのだ?あっひゃっひゃ!」
「田天が・・彼はまだ戦える・・!」
苦痛の表情を浮かべながらなお諦めないカレア。彼女の目にはまだ光が残っていた。
「あいつはダメだ。どう見ても弱いし、そもそも意志が弱い。おそらく今は城で震えてるんじゃないか?」
その場からビュンと勢いよく飛びあがり、そのままドラゴンの群れに混ざるバイス。群れの中でも最も体の大きいドラゴンに飛び乗り、地面を見下ろした。
「そこで見ておけカレアよ。お前の任務が、大失敗に終わるところを。」
そのままドラゴンたちは街に向かっていった。大ダメージを受けたばかりのカレアは魔力を全て解放し、猛スピードでアムールに先回りを試みる。
(まだだ、まだやれる・・!私はまだ・・負けていない!)
ドラゴンたちに気づかれず、地面すれすれを移動する。その速さは深傷をおっているとは思えないほどで、ドラゴンたちよりも数倍は上だった。
ついにドラゴンの群れがアムールの街に到着した。空中から街を見渡すドラゴンたちとバイス。それを見上げるアムール兵たちは驚愕している。
「ど、ドラゴンだ・・!」
「なんて数、なんて大きさだ。ヤバイぞこれは。」
「というかもう終わり・・。」
狼狽える兵士たちを見てバイスは彼らを指差した。ドラゴンたちはその指の先を見てターゲットを確認。
「ドラゴンたちよ、まずはあいつらを壊せ。」