ギャンブル
朝六時。この日の田天の起床はいつもより早かった。いまいるこの部屋は城の来客用に用意されている部屋のため、宿屋に比べて豪華だった。ホテルに泊まったことすらない田天は一晩休むことすら少し緊張してしまっていたのだ。しかし早い起床にはもう一つ理由があり・・。
「・・・まだ大丈夫か。」
部屋の窓を開け外の様子を確認する。どうやら昨日から変化しているところはまだないみたいだ。少しホッとした田天は用意していた缶コーヒーを開け少し飲む。
今日はこれからだ。これから正体不明の敵がやってくる。どんなやつなのか、仲間はいるのか、強いのか、そして自分は本領を発揮できるのか。そればかりを考えていた。コーヒーをすぐに飲み干してしまった田天は支度にとりかかる。
準備が整い部屋から出ると廊下に一人の男が立っていた。助っ人の一人、槍使いのバイスである。彼は田天と違って全く緊張している様子はなく、黙って天井を見ていた。そして田天に気が付くと昨日のような地震にあふれた表情で彼に近づく。
「おはよう。えーと・・。」
「田天ですよ・・おはようございます。」
「あぁそんな名前だったな!しかしお前、その高身長にその風格。なかなかのやり手に見えるが後方支援でよかったのか?」
「ええ・・接近戦は苦手なんで。」
若干弱気に答える田天を見て、バイスはあきれたように頭をかく。それからさらに問いかける。
「なぜ参加した?」
「え?」
「・・敵の強さ、数、戦略、何もわかっていない。そんな謎の敵になぜ立ち向かう?」
正宗にされた質問と同じだった。今回も「成長のため」と答えようとするが、それを遮るようにバイスは続けて話しだした。
「お前のその弱気な態度は「不安」からきているな?一切の情報がわからない敵と戦おうとしているんだ。不安になっても仕方がないと思う。
ならなぜ「戦わない」という道を選ばない?お前はこの街の者でもないだろう?死ぬかもしれないんだぞ?」
「それは・・・。」
不安を大きくさせられる。分かってはいたことだが、いざ言われてみるとやはり言い返せない。成長のためとはいえ、死んだらどうしようもない。
「お前がやろうとしていることはギャンブルと同じだぞ。勝つか負けるかわからない博打。しかも命落とす可能性すらある危険な賭け。
そんなことをやろうとしてるんだぞ、お前。」
「・・・・・。」
ここに仲間たちがいたら違ったのだろうが、一人で不安なときにこのバイスの強気な発言。心の弱さが目立つ田天にとっては致命傷であった。うつむきだした田天の横を通りすぎるバイス。田天は最後に、逆に彼に問う。
「あなたは、自分のやろうとしていることがギャンブルって・・思わないんですか?あなたにとっても未知の敵なのに。」
「・・俺は思わんね。
俺は自分が勝てる勝負しかしない。今回もかならず俺が勝つ。ちゃんと理由もある。
お前もこのスタイルとっていったほうがいいぞ。死ぬ危険が少なくなるからな。」
槍を回しながら去っていくバイス。その背中を見て田天は思った。今の発言は強がりではない、絶対的な自信から来ていると。
城の屋上では王が街の外を見渡していた。アムールの長としての責任からか、彼は昨夜は一睡もしていない。そんな彼のところにバイスがやってきた。彼は手紙のようなものを握りしめている。
「王様、おはようございます。」
「おお、バイス君か。おはよう。
今日は頼むぞ!」
「もちろん。それより王様、これが城の前に・・。」
手紙を王に差し出す。王はそれを手に取り読むと、顔色が一変した。
「もうすぐ来る・・だと?こんなに早くに・・!」
「俺は作戦通り街の外に向かいます。王様は兵士の準備を。」
「ああ、わかった。」
急いで屋上を後にする二人。王はさっそく百名の兵士を集めそのうち五十名を街の外へ、他の五十名を街の中へ配置した。