カレアの事情
「・・ふん、よく分からんな。」
侍は田天に背を向けていった。そして彼は鞘から刀を抜くと、そのまま田天の話しかけた。
「その程度の強さでそんなことを抜かしていては、成長する前に命を落とすことになるぞ。」
「・・・。」
言い返す言葉がない田天。魔力を思うように使いこなせない今の彼は、たしかにいつ命を落とすか分かったものじゃない。
しかも目の前には刀を持った侍。反論する気など田天にはさらさら無かった。
「・・このようにな。」
侍は振り向きざまに刀を田天の顔面めがけて振り抜いた。その一瞬の出来事に田天は反応できないでいたが、ダメージはかすり傷程度で済んだ。
「安心しろ、殺す気などない。
俺は正宗。またいつか会うかもな。」
下駄でペタペタと歩いていく侍・正宗。風で飛んできた木の葉が田天と正宗の間を抜ける。
「田天ー!」
その時、近くにいたフレイラたちが田天に声をかけた。走ってそっちへ向かう田天を正宗は遠くから見ていた。彼はなにやら険しい顔をしている。
(先ほどの斬撃、たしかにかすり傷にとどめるよう繰り出した・・しかしなぜだ?謎の力でその勢いが一瞬の止められた感触がした・・。あいつ、いったい何者だ?)
正宗は疑問を抱きながらも、街をあとにした。
夜、結局田天は城に用意された専用ルームに泊まることにした。フレイラたちは街のホテルで休むことにし、明日は陰から田天を応援するということになった。
田天が部屋の外の廊下を歩いていると、カレアに会った。田天を見やいなや、顔を赤らめるカレア。そして彼女はテクテクとよってくる。
「田天、あなたもここで休むことにしたのね。」
「う、うん。せっかく用意してもらったし、いつ襲撃されるか分からないからね。」
二人は椅子がある休憩スペースに入り、腰かけた。静かで誰もいない空間。
「他の二人は?」
「バイスもマーカスも泊まっているみたいよ。」
「そ、そうなんだ。」
「・・明日は必ず襲撃者を倒すわ、必ず。」
「・・・・。」
カレアの熱意のこもった台詞と瞳に、田天は一つの疑問を抱いた。
「カレアはなぜ傭兵に?なにか目標があるの?」
「・・・・逆よ。目標が私には無い。」
「え・・?」
それからカレアは田天に、傭兵になった経緯を話し始めた。
カレアは魔法使い学校に通う生徒だった。成績は良く、将来を期待されていた優等生。そんな学生の鑑であった彼女には一つ悩みがあった。
それは、将来の夢が無いということだ。基本的にこの学校の生徒には魔法学者か魔法を教える教師、城に使える魔法使いなどさまざまな進路が存在する。勇者に同行する魔法使いという道もある。だがカレアはそのどれにもなりたいと思わなかった。魅力を感じなかった。
卒業の時期が近づいてもそれは変わらず、結局卒業後にはどこにも就職しなかった。
それから彼女はあらゆる本を読んだ。なにか一つでもうちこみたいと思えるものがないか探し始めたのだ。しかし見つからない。
それから彼女は自分がなんのために生まれたのか、なにしに生まれたのか考えるようになる。だがこれも答えは出ず。
かといってなにもしないわけにはいかない。そこで彼女は世界各地をまわって、得意の魔法を使って敵を倒す『傭兵』に“いったん“なることでお金を稼ぎながら自分の夢、目標を探すことにしたのであった。
「・・明日このお城を守ることができたら、何かが変わるかもしれない。だから必ず成功させる!
ま、毎回それで何も変わらないんだけどね。」
笑いながらそう言う彼女の目は、どこか寂しそうであった。田天は黙ってカレアの話を聞きつついろいろ考えていた。
「・・必ず見つかると思うよ、目標。だってあなたは俺と違って、意志が強いから。」
「・・・。
ありがとう田天。」
それから二人はそれぞれの部屋に戻り、明日に備えて就寝した。