作戦会議
「・・・・。」
侍は一言もしゃべらない。見たところ彼も人間で、20代後半といったところか。しばらくすると閉じていた目を開いた。
「変更だ。俺はおりる。」
侍が放った一言に、部屋が一瞬シーンと静まった。沈黙をやぶるように王は侍に問いかける。
「お、おりるって・・助っ人希望をやめるということか?」
「ああ。見たところ俺がいなくても充分みたいだからな。」
侍はそう言うと黙って部屋から出ていった。ガチャンと部屋のドアが閉まる音が部屋に響き、固まっていた王はもといた椅子の前に戻った。
「・・まぁご覧の通り一人減ってしまった。残ったのはこの四人。心から感謝するぞ!」
「ったく、腰ぬけは元から参加するんじゃねーよまったく。」
侍が出ていったドアを見ながらバイスがつぶやいた。
「まぁでもあいつの言う通り、このメンバーだけでもいけると思うぜ。俺がいるしな。」
「頼もしくて嬉しいぞ。バイスくん。
では明日の作戦を告げる。ここじゃなんだし、会議室に移ろうか。」
王と助っ人の四名は少し離れた会議室に移動した。そして明日の襲撃に備えて作戦会議を始めた。
明日の朝から城の兵士が待機を始める。100人ほどいる兵士の半分を街の外、残りの半分を街の中に配置することにした。その際街の外にはバイス、街の中にはマーカスを待機させ戦いに備える。
カレア、田天は城の屋上から外を見て遠距離攻撃に徹することになった。
王と数名の幹部たちも屋上で待機し、弓を使って応戦する。街の住人たちには家から極力出ないよう呼び掛け、戦いの環境を整える。
これが会議で決まった内容だ。全員が賛同し、今日のところは解散となった。
ちなみに明日に備えてこの助っ人四名には部屋が用意されており、そこで休むことが許可された。
しかし心細い田天は、正直みんなのところへ帰りたいというのが本音だ。
城の外では田天の仲間たちが待機している。フレイラはなにやら険しい顔をして下を向いていた。
「フレイラ?どうかしましたか?」
「ああ、さっきの控え室にいた槍の男。あいつどっかで見たことがあるんだよなぁ。どこだったか・・思い出せない。」
そのころ田天はちょうど城を出ようとしていた。堅苦しい会議が終わり、軽やかな気分で城の門に向かう。するとその途中である男に呼び止められた。助っ人希望で来ていた、侍の男である。
男は「おい」と田天に声をかけると背後から近寄ってきた。いきなりのことに田天はビビる。
「おわっ!?な、なんですか・・?」
「・・・・。」
ジーっと田天の瞳を見る侍。怖くて目をそらす田天。やがて侍は首をかしげて悩み始めた。
「・・貴様、助っ人希望者だよな?」
「へ?は、はい。」
「それにしては何も感じない・・。
俺は相手の目を見るだけで、そいつのだいたいの強さ、戦闘技術を測ることができる。だから戦うことなく相手がどのくらい強いのか、どんな戦闘スタイルかが分かるのだ。
強い者と戦いたくてあの場に参加したが、正直どいつもこいつも雑魚ばかり。よくあれで名乗りをあげたもんだな、お前ら。」
とても失礼なことを喋る侍だったが、田天はとくに腹をたてることなく話を聞いていた。それはいまの自分が『弱い』と判断されたことがズバリ当たっていたからである。
「俺の域に到達しているものはあそこにはいなかった。だから興ざめして俺は帰った。
だが一つ気になっていたんだ。田天といったな、貴様だけ明らかに弱すぎる。他の連中もたいしたことはないが、貴様だけずば抜けて強さが感じられなかった。
なぜ助っ人希望を?」
「・・・。」
侍の読みに感心する田天。そしてその問いに答える。
「・・成長するためです。強さや技術とかもだけど、『人間的に』成長する。それが今の目標です。」