神鳴(カミナ)
アムールの街の外、田天がドラゴンを倒した場所よりさらに遠方の崖に到着したマルクと田天。田天からしたら街から出たのは本日二度目である。崖の上から遠くの空を眺めるマルク。
「マ、マルク?こんなとこまで連れてきて何がしたいの?」
「・・そろそろ教えようと思ってな。新たな技を・・!」
「!!」
魔力解放を数度成功させている田天だったが、いまだに技の数は光刃の一つのみ。そんな彼に、マルクは次の技を伝授する気でいた。自分でメモしたルシフェル技の中から、一つをチョイスする。
「こうやって一つ一つ覚えていくほうが集中して覚えられるし、なにより成長を感じられるからな。
さて・・今回はルシフェル様の得意な技の一つ、“神鳴“を覚えてもらおうかな。」
「神鳴・・。」
緊張と期待に、ゴクンと唾を飲む田天。マルクは田天に背を向け崖から向こう側を眺めながら話を進める。
「神鳴も光刃と同様に攻撃技だ。だがその性質は全く違う。
光刃は光の刃を「狙った敵」に飛ばす、言うなれば一点狙いの技だ。威力が大きい分狙いを定めて狭い範囲を攻撃することになる。まぁ狭いと言っても刃の長さは約五メートルほどもあるから敵一人を倒すには十分な大きさではあるが。
それに対して神鳴は広範囲を攻撃する技だ。威力は光刃に遠く及ばないが、注目すべきはその範囲。さきほどいたアムールの街なら”一撃で”壊滅できるほどの広さを持っている。」
「あんな大きな街を・・!」
「あぁ、威力が低いと言ってもルシフェル様の技なだけあって、なかなかの火力を誇っている。どうだ?使いたいだろう?」
「たしかにこれからどんな敵が現れるかわからないし、これは覚えておいた方がよさそうだ。」
強大なルシフェルの力を手に入れたといっても、中身は田天。先の不安は尽きないのだ。
マルクは田天を崖の先端に立たせた。下を見るとこの崖の高さがよく分かり、田天は少しビビってしまう。
「向こうの空を見ろ。そして空全体を攻撃するイメージをしてみろ。」
「空全体を・・。」
「そしてもう一つ大切なことは、背中に魔力を集めるということだ。ルシフェル様はこの技を放つ際、背中に技を放つための「砲台」のようなものを魔力で作っていた。それも意識しながら魔力を使ってみろ。」
「・・わかったよ。」
田天は空を見上げた。無限に広がる青い空。そこに技を撃ちこむイメージを浮かべながら、背中に魔力を集める。
しばらくしてマルクと田天はアムールに戻ってきた。城の前ではフレイラ、アロマ、サラが待っており、サラが手を振っている。
「田天!もう助っ人は集まる時間ですよ!」
「よし、急ごう!」
元気に駆けていく田天に、仲間たちは走ってついて行く。彼の表情を見て、フレイラは何かを確信しマルクに話しかけた。
「あいつに新しい技、教えたか?」
「よく分かったな。その通りだ。」
「街から二人で出て時間使って帰ってくる。こういうこと、ギルデガールでもあったからな。
で、成功したのか?」
「いやぁ・・思った通り、ダメだったよ。」
少し笑いながら、嬉しそうに話すマルク。フレイラにはそれがよく分からない。
「そこも前と一緒かよ!ならなんで田天はあんなに元気なんだ?」
「さあな。だがあいつ、「やり方が分かったから、いつか必ず成功させてみせる」とは言っていたな。」
「へぇ、ならなんでお前も笑っているんだ?おかしいだろ?」
フレイラの問いに、マルクは前で走る田天の背を見ながら答えた。
「失敗したのにあんなに元気なんだぜ?あのネガティブな田天が。
それを喜んじゃおかしいか?」
「・・いや、おかしくないな。」
フレイラも前方の田天を見て、ほんの少し笑みがこぼれた。