人生初の戦闘
「はっはっは!バカな娘だ!弱体化しているとはいえルシフェル様の高性能な技の数々や高度な戦略性は変わっていない!
どこの低級悪魔か知らんが命知らずなやつだなぁ!!」
隣の魔物はルシフェルに絶対の自信を持っているようで、目の前の悪魔を罵倒する。悪魔の方も全く引き下がらない。
「たしかに私はそんなに高位な悪魔ではない・・だが自分の戦闘力には絶対の自信を持っていてな。上位悪魔はもちろん、ルシフェル、お前も私にとってはただの雑魚だ。」
「はははは!こ、この娘狂ってますよ!
ルシフェル様が雑魚!?わ、笑いが止まりませんよ!ははははは!!」
「はったりじゃないぞ?弱体化とか関係なく、ルシフェルとは前から戦ってみたかったんだ。でも上官から止められていてな、その願いはずっと叶わなかった・・。
だが弱体化の情報が入り、ようやくルシフェル討伐の許可が下りたのだ。
覚悟しなよ?ルシフェル様・・・その首、全力で獲りに行くからさ。」
二人の会話を黙って聞いていた田天。その心は穏やかではなく。
(え?まさか今から戦うの?俺が?マジで?
喧嘩すらしたことない俺が、今から殺し合い始めるの?勘弁してくださいよ・・。
高性能な技?高度な戦力性?そんなもの持ち合わせてないんですけど・・。
嫌だ・・戦いたくない・・・怖いよ・・・・!)
「さぁて・・夢にまで見たルシフェル戦、気合入れていくかぁ!!」
女悪魔は自分の身長ほどある大剣を軽々振り回し、そして構える。田天の鼓動が激しくなる。
(そ、そうだ・・もし本当にルシフェルになったのなら、何か強い技が使えるはず・・!
一か八か、それにかけよう・・・。)
「ど、どの技で消してやったらいいか・・な?」
傍らの悪魔にさりげなく己の技を聞き出す田天。とりあえず今はルシフェルに備わった技にすがるしかない。
「そうですね・・もうここは”闇の嵐”でやつの細胞をひとつ残らず消し飛ばすのはどうでしょうか?あんな命知らずは一撃で葬ってやりましょう!」
「そ、そうだな!よ、よしそれでいこう!!」
とりあえず技を聞き出した田天は女悪魔の方を向き、なんとなく構えをとる。
(頼む・・出てくれ闇の嵐・・・頼むから・・・一生のお願い・・・!)
「悪魔軍・第三傭兵団・突撃部隊所属・”烈火のフレイラ”・・・・参る!」
フレイラと名乗るその悪魔は青かった目を赤く変化させ、猛スピードで田天に突撃してくる。
「ルシフェル様!」
「あ、あぁ分かってる!
喰らえ悪魔ぁ!”闇の嵐”!!」
手を前にかざし、大きな声で技名を叫ぶ。
五秒後、そこには胸に大きな切り傷をつけ倒れこむ田天の姿があった。驚く魔物とフレイラ。
「ル、ルシフェル様!?そんな・・まさか得意技すら出せないほど弱くなってしまわれてるなんて・・。」
「ふん・・なかなか深刻な状態にまで陥っているようだなルシフェル・・。まぁ私の一振りをその程度の傷で済ませるところを見ると体の丈夫さはそのままのようだがな。
だが容赦するつもりはないぞ、ここで確実に仕留める。」
大剣を構えるフレイラ。仰向けになったまま不穏な空を見つめたままの田天。
(出ないんかい。ダークネスストーム出ないんかい。
もういいや、ここで死んでも。
この世界でルシフェルとして生きていくのも、元の世界に戻って生きていくのも、どっちも苦しいし。この人に殺してもらった方がいいよ、絶対。うん、そうしよう。)
全てをあきらめた田天はゆっくりと立ち上がり、そして大の字になる。
「悪魔フレイラよ、見事な腕だ。
よかろう!この首、貴様にくれてやろう!抵抗はせん、一撃で討ち取るがいい!」
「ルシフェル様!?なにを・・?」
「・・・。」
田天の言うことを理解できない魔物と、それを聞き黙り込むフレイラ。フレイラは田天の目をじっと見る。
(頼むぞ、一撃で終わらせてくれよ。あんまり苦しみたくないから・・。)
心の中で懇願する田天。今の彼は完全に「死の道」を選んでいた。それが今の彼の出した答えであった。
「ちょっとそのままでいろ・・・。」
大剣を手から離し、田天に近寄っていくフレイラ。そして田天の目の前まで来て、改めてまじまじとその目を見る。
(ううっ・・・)
田天は目の前のフレイラを見てひるむ。悪魔といえど、その顔は人間とほとんど一緒で、しかもとても美人だ。
赤かった目はもう青色に戻っており、とてもきれいな瞳をしている。高い鼻にシュッとした輪郭、顔のパーツすべてが整っており、田天の鼓動は先ほどとは違った意味でドキドキし始めた。
「な、なんでしょうか・・?」
「お前・・・ルシフェルじゃないな?」