アムールへの脅迫状
「いやぁ、まさか魔力使えるとは思えなかったよ。」
街に帰ってきた田天は上機嫌で歩いている。ボス戦以外でも本領を発揮できることが分かったため、自身の成長を感じていた。
(しかしそうなると、魔力の解放条件ってなんなんだ?いまだに分からない・・それさえ分かれば楽なんだけどなぁ。)
ふらふらと歩いていた田天は、サラを見つけた。彼女は街の掲示板を見ているようで、特にその中の一枚の紙に夢中になっている。
「何してるの?」
「あ、田天。これを見ていたんです。」
サラは自分が見ていた貼り紙を指差した。そこには『助っ人急募』とデカデカと書いてあり、紙の下の方にはアムール城の王の印が押してある。貼り紙の内容は、
『助っ人急募
先日、アムール城に脅迫状が届いた。それによると、◎月△日に何者かがここアムールの街を襲撃に来るらしい。敵の情報も戦法も全く分からず、襲撃のタイミングのみ把握している状況である。
城の全ての兵を出撃させるつもりではあるが敵の戦力が予想よりも強大である可能性もあるため、頼りになる助っ人を募集したいと思う。
「我こそは」と思ったそこのキミ、襲撃前日である◎月○日に城の前まで来てくれ。
アムールの未来は、キミにかかっているかもしれない!
アムールの王』
というもの。
サラは田天に優しく笑いかけ、その肩に手を置いた。田天はてっきり、『パーティのみんなで助っ人になろう』とサラは言ってくるものだとばかり思っていた。そのため先ほどの件もあって田天のやる気は充分にあった。サラの言葉を聞くまでは。
「さぁ田天、行ってくるのです。『一人で』。」
「・・ん?なんて?」
「これはあなたの成長のチャンスなのです。このような大きな街を救い民から讃えられ、さらに王に認められればあなたの自信はぐんとアップするはず!
これからの旅のためにも、ここでレベルアップしておきましょう!ね!」
田天の顔が一気に青ざめる。そしてサラから目をそらした。
「一人か・・いたた!お腹が痛・・」
「はぁ!」
サラは田天の頭頂部に軽くチョップした。その行動の意味が分かっていない田天の手をサラは引っ張り、城の方向へ歩き始めた。
「先ほどのチョップで田天に取りつくウイルスを撃破しましたよ。ふふっ。
これで大丈夫ですよね!」
「いや意味分からないし、そもそも頭じゃなくてお腹だからね痛いところ。ウソだけどさ。」
城の前についた二人。そこには『助っ人希望の方はこちら』という看板とともに兵士が一人立っていた。サラはさっそく兵士に話しかけ、田天の助っ人参加を申し出た。
兵士によると助っ人希望者はこれで四人目らしく、このあと他の三名もここにやってくるらしい。そのとき田天を含めた四名で王様の前に顔を出す時間をもうけるらしく、田天はとりあえず参加票だけもらって時間をつぶすことにした。
「大丈夫です田天、私はあなたはやればできる人だと信じていますから!」
目をキラキラと輝かせて田天に期待するサラ。田天はそれに不安を覚えつつも、期待には答えたいという思いもあり複雑な気持ちを抱えていた。
「それに、いざとなったら私が手伝ってあげますから。」
「サラさん・・!」
そこへマルクとアロマがやってきた。それぞれ自分が欲しかったものを買っており、マルクに関しては小型の剣を手に入れていた。得意気にそれを振り回しながら近づいてくるマルク。
「田天!サラ!見てくれ!武器屋で購入した、俺専用の武器だ!」
マルクの剣は紫色の短刀で、刃がカーブを描いている独特なフォルムをしている。若干だが、その刃からは魔力が感じられる。
「短いが、相手の速さを鈍らせる効果を持った魔法剣だ。しかもこの軽さなら非力なゴブリンの俺でも使える。お前たちだけに戦わせるのは気が引けていたからな。これからは参戦させてもらう。」
「き、気にしなくていいですよ。マルクは田天への助言という大切な役割があるのですから。」
「あ、そうだそうだ。田天よ、ちょっといいか?」
サラの言葉でなにかを思い出したマルク。彼は田天をちょいちょいと手招きし、二人でどこかへ向かっていった。
残されたサラとアロマはそこにあったベンチに腰かけた。遠く放れていくマルクと田天の姿を見ながら、アロマは言葉を漏らす。
「私もなにか武器を購入すべきでしょうか・・?」
「いえ、その必要はないでしょう。自分の得意なことでパーティに貢献できればそれで充分だと思いますよ?あなたの場合はみんなを癒してあげることでしょうかね、やっぱり。」
アロマを気づかうサラ。天使とエルフの二人が話しているこの空間は、とても温かく柔らかい空気につつまれていた。