恋の始まり
「ギキャァァァ!!」
ドラゴンたちと傭兵カレアの戦いが始まった。ふたてに分かれだドラゴンたちは挟み撃ちでカレアに突撃してきた。そらを陰で見ていた田天は焦りの表情を見せるが、当の本人カレアは涼しい顔を崩さない。
杖を手放し両手を広げ、手のひらをドラゴンに向ける。そして目を閉じて詠唱を始める。
「地獄の業火よ焼き焦がせ・・“ボルケーン“!」
カレアの両手から放たれた炎は渦となり、向かってきたドラゴンに衝突した。凄まじい炎の攻撃はドラゴンを完全に呑みこみ、彼らの突撃を止める。
カレアは攻撃の手を止めない。炎の渦を放出しつつ、さらに詠唱する。
「神の雷よ裁きを与えたまえ・・“ボルテクス“!」
上空に黒い雲が出現した。そして雲から雷が放たれ、炎の渦に動きを止められているドラゴンに落ちる。「ギャァァ!」と苦しみの声が聞こえたところで、炎の魔法“ボルケーン“を解除するカレア。「フフッ」っと笑うその凛凛しい横顔に、田天はえらく感心してしまった。
(凄い・・あんな狂暴そうなのを二匹同時に・・。しかもあんな余裕な顔で・・。)
ドラゴンはどちらも丸焦げになって倒れていた。無傷で戦いを終えたカレアは杖を拾うと、ぶんぶんと回し始めた。
「傭兵カレア!またしても勝利ぃ!」
(なんだあれは・・?)
カレアの勝利の舞を白い目で見ていた田天であったが、ふと見上げると彼女の真上にドラゴンを見つけた。しかもそのドラゴン、猛スピードでカレアに向かって急降下していた。
(あぶない・・!)
「さーて。では本来の目的を果たすために城に向かいますかね。」
くるりと街のほうを向くカレア。しかし上からなにやら音が聞こえたため、「ん?」と軽い感じで空を見上げた。
目線の先にはドラゴンの顔があった。カレアとそのドラゴンの距離は約一メートル。戦いを終え気を抜いている状態でのこの状況に、さすがの彼女も動きが止まる。
(間に合わない・・死・・)
死を予感したカレアは逃げることも対抗することもせず、固まっている。
その時だった。電光石火の速さで何者かがドラゴンの顔を蹴り、激しい衝撃音を響かせるとともにドラゴンをそのまま遠方へ吹き飛ばした。ドラゴンはしばらく地面を転がり、やがて止まるといっさい動かなくなってしまった。
「・・・・!」
恐怖のせいで目に少し涙を浮かべていたカレア。彼女は吹き飛ばされたドラゴンをしばらく眺めていたが、その後自分を助けてくれた人物のほうを見た。
カレアに背を向けているその人物の長い白髪と青い服は風に揺られ、大きく広がる四枚の羽は神々しく見える。ほとばしる魔力は凄まじく、近くにいるとなんだかその光に飲み込まれそうになる。
やがて『彼』は振り向いた。人間で言うと二十代くらいの顔立ちでとても整った顔。その瞳は透き通った青色、しかしなぜかそこからは底知れない闇のような圧力も感じられる。カレアはそんな不思議な感覚に戸惑っていると、『彼』は彼女に優しく話しかけた。
「怪我はありませんか?」
「・・・はっ、はい・・。」
カレアを助けたその『彼』は、田天であった。彼女の命の危険を感じた瞬間に魔力解放に成功したのだ。
「では・・。」
魔力を解除すると、田天は街へ戻っていった。
「・・・。」
カレアは自分の心臓の鼓動が激しくなっていることに気がついた。 命の危険を感じた恐怖によるものかとも思ったが、どうやらそうではないようだ。
(こ、これは・・・恋・・・・?)