魔法使い兼傭兵・カレア
ひどく落ち込みながら防具屋を出る田天。するとそのとき、街の外に魔物の気配を感じた。しかもなかなかに強い気配で、彼は正直行くかどうか迷っていた。
(雑魚ではないんだろうけど、俺が行ったところで・・ねぇ。)
毎回ボス戦クラスの戦いじゃないと実力を発揮できていないことは、田天自身も分かっていた。この明らかにサブイベントっぽい戦いで魔力が使えるとは、とてもじゃないが思えない。そんなふうに考えてしまう。
(・・と、とりあえず行ってみるか。陰から覗いて、やばかったらフレイラかサラを呼べばいいか。)
気配がするほうへ走って向かった。
(あ!あいつらか・・。)
街の外の木の陰に隠れている田天。目線の先では三人組の商人が、二匹のドラゴンに襲われていた。ドラゴンは10メートルほどの長さがあり、大きな羽で宙に浮いている。爪や牙が鋭く、そのかなりの迫力は遠くにいる田天にも伝わってくる。
(あれがドラゴン・・話には聞いてたけど初めて見たぞ。虎の一万倍強いんだっけ?魔力使えない限りまず勝てない。)
とりあえず魔力を溜めようと試みるが、やはりなにも起きない。
そんななか、商人たちは持っている袋から肉をとり出しドラゴンの前に投げた。ドラゴンはその匂いを嗅ぐと、むしゃむしゃと食べ始めた。
「今のうちに街の中へ逃げよう・・!」
肉を投げた商人がそういうと他の二人は黙ってうなずき、静かに街のほうへ歩きだした。それを見た田天もひと安心。
(これでなんとか助かりそうだな。ドラゴンたち、気づかないでくれよぉ・・。)
逃げようとする商人たちに気づかず、肉に夢中なドラゴンたち。商人の作戦成功を木の陰から祈る田天。
しかし、その作戦は失敗に終わることとなった。
「商人さんを狙うそこのドラゴン!この私が駆逐してあげるわ!」
上空から赤い布が降ってきた。よく見るとそれはローブで、本体はそれを身に付けた女性だった。
シュタっと着地すると堂々と立ち上がる女性。黒髪に赤いローブ。左手には木製の杖を持っている。後ろからでよく顔は見えないが、おそらく人間であろう。その出で立ちから、魔法使いであることもなんとなく分かった田天。
彼女の大声で肉を食べるのを中断し、ギロリと前を向く二匹のドラゴン。商人たちはせっかくの自分たちの作戦が台無しになったことにショックを受けたが、空からやってきた助っ人に対する期待の念もあった。
「おお・・魔法使いの方ですか。このドラゴンたち、倒せそうですか?」
「もちろん!
私は傭兵でいろんな魔物と戦ってきた凄腕魔法使いのカレアです。商人さんたちは街のほうへ!」
「助かるよ!」
そう言うと三人の商人は街の方向へ走っていった。
それを見逃さないドラゴンは口に魔力を溜めると、それを球状にして商人めがけて放った。轟音とともにやってくる魔弾に足が止まってしまう商人。
しかしカレアが杖をかざすと、ドラゴンの魔弾はその場で爆散した。爆音と衝撃だけが響き、商人たちは無傷で済む結果となった。
「ドラゴンたち!どこを狙っているの?
相手はこっちなんだけど?」
ドラゴンに向かってニヤリと笑いかけ挑発するカレア。ドラゴンの標的は完全にカレアに決まった。