商売の街・アムール
口を大きく開け笑い出すザーク。それをポカンと眺めるフレイラを、彼はチラッと見る。そして、
「ハハハハ・・ハァ!!」
その口から小型の刃が飛び出た。これまた闇のオーラで作り出したもので、黒く鋭い作りになっている。ものすごい速さで飛来するその刃は、ザークの奇襲作戦も相まって、一瞬でフレイラの首の前まで到達した。
(笑っていると見せかけていきなり超速の刃を飛ばす技・・卑怯だが確実に相手を殺す俺の奥の手!死ね裏切りもの!)
フレイラはそれを涼しげな顔で、冷静に叩き落とした。叩かれた刃は地面にズドっという鈍い音をたてて突き刺さり、もちろんフレイラは無傷で済んだ。
「なっ・・!?」
「この姿でもさすがに今のは驚異だったろうな、以前の私なら。」
そのままザークの腹を蹴り、衝撃波とともに彼を吹き飛ばした。数メートル転がってから気絶したザークに、フレイラは近寄って声をかけた。
「最近、『斬撃』には縁があってな。しかもすさまじいレベルのやつに。
それに目が慣れたせいかな。お前のおもちゃのような刃、全く怖くなかったぞ。」
「・・・。」
「悪魔軍で雑魚相手に戦う日々を送っていても、あんな経験はできないよ。世界は私たちが思っているより広いみたいだ。」
「・・なにが言いたい。」
「お前もいつまでも悪魔軍にいるより、目標を持って旅をしてみるといい。そしたら私に勝てるようになるかもな。」
仰向けになって倒れたいるザークに背を向け、クリーチャー・スタイルを解除し街の方に歩いていくフレイラ。ザークはしばらく黙っていたが、最後にフレイラに質問をぶつけた。
「お前の目標はなんだ?」
「・・打倒、ルシフェルだ。」
フレイラの姿は見えなくなり、ザークは一人取り残された。ダメージが大きく、まだ立ち上がれそうにない。ここで彼はあることに気がついた。
(俺、殺されなかったのか・・以前のフレイラだったら容赦なく殺っててもおかしくない・・。
何があいつを変えたんだ・・?)
フレイラが田天らと合流した時にはすでに、街の目の前まで来ていた。間近で見るとやはりかなり大規模な街で、その賑わいは外からでも聞こえるほどである。
「思い出しました。ここはアムールの街。さまざまな商人が集まる、商売の街と言われている場所です。」
アロマの言葉を聞き、テンションが上がる一同。魔物退治でお金がだいぶ貯まったため買い物が待ち遠しいのだ。
「田天、お前も嬉しそうだな。なんか欲しいものがあるのか?」
「防具を買おうかな、と。魔力0状態でも防具があれば敵の攻撃が痛くないしね。」
「・・なんかお前の場合、買わない方がいい気がする。精神的な意味で。」
街に入ると想像通りの人だかり。入り口から見ただけでも数十種類の店がある。それに群がる客たちの様子は、みな楽しそうであった。
「よし、しばらく買い物してまた後で合流しようか。」
「そうですね。では二時間後にあの時計台の前に集合で。」
サラが指差す先には立派な時計台が建っていた。さまざまな装飾がされており、時おり光を放つその様は待ち合わせ場所には最適だ。
各々が単独行動することになり、田天はさっそく防具屋に向かった。うきうきで防具屋に入ろうとすると紫の頭巾を被った見るからに怪しげな男とすれ違った。その際、少しぶつかったため気の小さい田天はきちんと謝った。しかし男はそのままフェードアウト。田天はとりあえず防具を見て回ることにした。
金色の防具を見つけた田天はその額を見て、なんとか買える金額であることを確認した。
(この青いルシフェルの上着、カッコいいけど生地は布だから防具としては非力なんだよなぁ。よし、この金の鎧を買おう。)
ポケットの財布を取り出そうとする田天。しかし財布は無く。
(まさか、さっきの人に盗られた・・?
え、またお金0で単独行動?また?)