やってきた悪魔の刺客
四人の仲間とともに旅を続ける田天。エルフのアロマが加わり10日ほど経過した。仲間が増えたとはいえ戦力的には変わりはなく、あいかわらず道中で出会す魔物とはフレイラ、サラの二名が戦う始末であった。
マルクとアロマは後方でその戦いを見守っており、田天はあたふたしながら戦いの場には立つが、毎回魔力が使えず攻撃ができないでいる。その光景にフレイラはすっかり呆れ、若干諦めていた。
「す、すみません・・いつもお役にたてずに。」
申し訳なさそうに深く頭を下げるアロマ。しかし誰もそれについて気にしておらず、もちろん誰もせめない。
「いいっていいって。アロマは料理ができて気配りもできる。このパーティにはいなかったタイプだからな!」
「そ、そうでしょうか・・?」
「マルクの言う通りです。それにあなたの温かい雰囲気は、戦いの日々に癒しを与えてくれていますよ。」
「さ、さすがに照れますね・・。」
マルクやサラに励まされ、アロマは照れながらも元気を取り戻したみたいだ。田天とフレイラもそれを見て安心した。
「でかい街が見えるぞ。」
田天一行は遠くに街を見つけた。中央には城も建っている、なかなかに大きな街だ。みんな上機嫌でその方向に向かおうとするが、フレイラだけ立ち止まった。なにやら後方を気にしている。
「すまん、私はちょっと用があって遅れる。みんな先に行っててくれ。」
「用?」
フレイラの行動に疑問を持ったマルクだったが、田天の一声で結局街に向かうこととなる。
「トイレだよ、トイレ。」
「あー、なるほどな。」
「田天、あとで羽もぐからな。」
みんなの姿が見えなくなったところで、フレイラはキリッと表情を変えた。そして、すぐ近くに見える木に向かって話しかけた。
「そこにいるんだろ?ザーク。」
すると木から何者かが降りてきた。降りてきたのはフレイラと同じように黒い羽や角をもった悪魔。銀の長い髪をしたその男の悪魔は、フレイラに近づいてきた。
「久しぶりだな、フレイラ。お前が無断で悪魔軍を抜けたこと、隊長はお怒りだぞ?」
「知ったことではない。もうあそこに興味はないし、今の生活をそれなりに楽しんでるんだ。私を連れて帰るつもりなら、悪いがそのまま引き返してくれ。」
反抗的な態度を見せるフレイラを、ザークと呼ばれたその悪魔は数秒間黙って眺めていた。そして軽蔑したような目をしながらフレイラにさらに近づく。
「その服装。なりほど本当に悪魔軍を捨てたようだな。まぁでもなかなか似合ってていいんじゃないか?スレンダーでクールなお前にピッタリだ。」
「そりゃどーも。」
「だが、一つ勘違いしてるぞ。お前。」
ザークは背を向け、フレイラと距離をとりだした。フレイラは横目で彼を見る。
「『連れて帰るつもりなら』?
ふふっ、面白い冗談だ。裏切りものには死んでもらう。」
振り向くと同時に右手に黒い剣を出現させ、そのままフレイラに斬撃をくり出すザーク。それをフレイラは紙一重でかわす。
「ほう、今のを避けるか。あいかわらず戦闘だけは得意なようだな。
俺の次に・・!」
ザークは自ら作り出したその剣で、フレイラに攻撃をしかける。さらに左手にも同じものを出現させ、二刀流でフレイラを攻め始めた。
「俺たちは突撃部隊のなかでも一二を争う戦闘の達人だったな!もったいない・・あのまま残っていたら、それなりの地位を手に入れたかもしれないのに。」
フレイラは紙一重で避け続けていたが一撃だけ頬にかすり、傷を作ってしまった。
「そういえばお前、あのでかい剣はどうした?」
「あぁ、あれなら捨てたよ。別にもう使わないからな。」
「オシャレに武器は不要ってか?」
ニヤリと笑いバカにしてくるザーク。しかしフレイラも静かに笑い返す。そして体のまわりに黒いオーラを出現させると、彼を睨んだままその姿を変えた。
「“クリーチャー・スタイル“。お前にはたしか・・見せてなかったよな?」
「なんだこの姿は・・?」
黒のオーラが消えた代わりに、オーラで作った黒い服がフレイラを纏う。その面積は狭いがそのぶん肌の変色が目立つためより悪魔に違い姿となり、さらには赤色の電気がバチバチと身体中を駆け巡る。
「さ。じゃあとっとと終わらせてあいつらに合流するかね。」
その場からフッと消えてザークの後ろに回り込むフレイラ。そしてそのままザークの二本の剣をへし折った。
そして今度は、唖然とするザークの目の前に現れた。
「どうだ?帰る気になったか?」
「素晴らしいな。だが俺にも奥の手はあるんだよ。
くくっ。クハハハ!」