対面
「あれ・・あいつの光刃だよな?」
アララの村にいたフレイラは、遠くの空に光刃を見た。それを確認したマルク、サラは大きなため息をついた。
「まったく・・一人でヤマタノオロチ様退治に行ったと聞いたときにはどうなるかと思いましたよ。」
「あ、あの・・。」
安堵した様子の三人に、疑問を投げかけたアロマ。
「田天さんは、大丈夫なんでしょうか?」
「ん?ああ、無事みたいだぜ。
敵も今ので、退治したと思うよ。」
「え・・?」
遠くを見つめるフレイラの瞳はとても綺麗で、そこには安心しきっているがゆえか、穏やかな感情が感じられた。
「なんという・・ことだ・・?」
地下施設。いまそこには光刃により右腕を失ったバジルが倒れている。息が荒く、もちろん大量の流血が見られる。そこにいた女性たちは絶句しており、目の前で起きたことを今だ信じられていない様子だ。
ヤマタノオロチ様も同様。あの絶対的な力で自分を含めた数々の魔物を倒してきたバジル。その彼が、たった一撃でこのザマである。
田天は倒れているバジルのもとに近づいていく。ヤマタノオロチ様の前を素通りし、倒れた敵の前に立った。
「な・・なんて化け物だ・・。この俺が一撃で負けるなど・・。」
「・・・・。」
「殺せ・・もう俺に、お前を倒す力は・・残ってないよ・・。」
「・・・・。」
右腕をバジルのもとに近づける田天。その場の全員が、ここでバジルが殺されると予感した。が、田天は彼の左腕を掴み、背負った。そしてそのまま、ヤマタノオロチ様に飛び乗った。
「ヤマタノオロチ様、アララの町に連れていってください。彼が死んでしまう前に。」
「え・・?」
「早く。」
背中にいる田天の威圧感が、ヤマタノオロチ様の体全体に伝わった。逆らうという選択肢は残されていなかった。
「あなたたちはここにいてください。」
女性たちにそう告げると、田天はヤマタノオロチ様に乗って、来た道を戻っていった。
「あ、あの人はいったい・・。」
残された女性たちは、起きた状況の整理すらうまくつけられず、ただ去っていく田天を眺めていた。
「おい!ヤマタノオロチ様が来たぞ!」
村人の一声で村のみんなが入り口に集まった。そのなかにはフレイラたちやアロマ、バンパもいた。
「凄いスピードでこっちに来てないか?や、やばいかも・・。」
ヤマタノオロチ様の巨体がこちらに向けて駆けてきている様は、村人たちにとって恐怖でしかなかった。
やがてヤマタノオロチ様はスピードを落とし、村の前で静かに止まった。そしてその背中から田天と、彼に背負われたバジルが降りてきた。ホッとするマルクとフレイラ。サラは感動で若干泣いていた。
「田天、これはどういうことだ?」
「今から説明します。」
田天は自分が連れ去られてからのことを話した。もちろんバジルの発言についても告げ、それをアロマも聞いていた。
「お父さんが・・。」
「そしてこの人が、バジルさんです。」
肩からバジルを静かに降ろす。同時にアロマが彼に駆け寄った。バジルは戦う力こそ残っていないが、意識ははっきりとしていた。
「アロマ・・か?」
「お、お父さん・・・。」
「・・へっ、今こいつが言った通りだ。俺はお前を捨てたんだよ。
自分の、欲のためにな。」
ニヤリと笑って見せたバジル。この状況でも彼は自分の娘に、自分が悪人であることをしっかりと示した。その瞳の奥に、禍禍しい闇を宿しながら。