ルシフェル誕生
「うーん・・。」
目をこすりながら目覚める田天。さきほどまでの頭痛は嘘だったかのように、なんの痛みも感じなくなっていた。
「やっぱりさっきのはただの夢だったんだ・・。得体の知れない化け物にわけわからないこと言われてたけど、しょせんは夢。覚めてしまえば問題なし。
ほんと・・わけわかんなかったなぁ。」
目覚めた田天から、眠りにつく前にとりついていた絶望が消え去っていた。さきほどの衝撃のせいか田天はすっかり”普段”の状態に戻っていたのだ。
しかし、だからといって彼から不安が消えるわけもなく。
「はぁ・・結局これからどうしよう・・。正解を見つける前に寝ちゃうとか、やっぱい俺はポンコツ野郎だな。
ん?」
ここでやっと、田天は空の異変に気がついた。
まがまがしく、どす黒い空。灰色の雲が田天のいる地点を中心として渦を巻くように浮かんでいる。ところどころでカラスのような鳥が飛んでいる。
先ほどの夢の世界とも、もちろんネカフェとも異なる世界。そんな世界にいるということを田天は理解できた。
(さぁて・・・ここどこだ?)
「おぉ!!お目覚めになられましたか!」
「へ?」
自分一人と思っていたらから、右側から聞こえた声にビビる田天。そこには羽の生えた子鬼のような魔物が立っていた。あやしい見た目をしたその魔物は目をキラキラとさせながら田天に話しかけてくる。
「いや~。何度声をかけても返事がなかったものですから、てっきり亡くなられたのかと思っちゃいましたよ~。」
「・・・。」
田天は自分の体を確認したが、すぐにおかしいことに気付いた。本来田天は黒髪なのだが、今の彼は腰に届くほど長い白髪であった。
「でも心配するだけ無駄でしたね~。」
白い上着に青のジーパンを着た服装だったはずが、青や黒を基調としたキラキラした上着に、だぼついた白いズボンを身に着けていた。
「だってあなた様は・・・」
背中に四枚の羽もあった。
「堕天使・ルシフェル様なのですから!」
自分の身なりに加え、今の魔物の台詞で田天は確信した。
「ルシフェルに・・なった・・・。」
「ルシフェルに・・なった?
おもしろいことを言いますね。ルシフェル様。」
愛想よく笑う魔物に、困惑する田天。
「申し訳ないんですけど、自分ルシフェルじゃないんですよ。」
「ははは、なにわけわかんないこと言ってるんですか!」
「いやたしかにわけはわからないんですけどね。」
「だって見た目が完全にルシフェル様じゃないですか。」
「なんか精神だけこの体に埋め込まれちゃったみたいで・・」
「そんなまさか~~。」
「そのまさかが起きてるから今まさに吐きそうなんですよね。」
そんなやり取りをしていると、二人の背後の岩が爆発した。驚き振り向く二人の視線の先には、大剣を持った女性が立っていた。金の長髪に青い瞳。顔は人間のようだが、頭に生えた二つの角や背中の羽から見るに、悪魔のようにも思えた。
「へぇ・・・こんな近くまで寄っても気配で気づかないなんて、思っていたよりたいしたことないんだね。ルシフェルさま。」
にっこりと笑って見せたその女性の目は、まさに悪魔のように冷酷で、そして殺気に満ちていた。