ボスの正体
ヤマタノオロチ様の九つの口が開かれた。轟音が部屋中に響くとともに、それぞれの口が黄色く光る。一つでもなかなかの魔力を誇っている光の玉が九つも同時に出現し、田天の焦りは最高潮に達した。
(怖すぎる・・。)
それぞれの顔が、それぞれの目が田天を睨み付ける。恐怖で足が動かない。
「“閃光波“!」
ついに放たれたヤマタノオロチ様の攻撃。九つの玉があらゆる方向から田天を襲う。
そして玉の一つが田天をとらえた。彼と衝突した玉は派手に弾け、その破裂に連鎖して他の玉もコンボのように弾けていく。田天はその破裂をその身にうけ続けた。
(なんでだよ・・なんで毎回、思うように技が撃てないんだよ・・
終わった・・この爆撃で俺は・・)
朦朧とする意識の中で田天は自分の弱さを嘆いた。そして九つ目の玉の破裂で完全に意識を失ってしまった。その場に倒れこんだ田天のほうへゆっくりと近づいていくヤマタノオロチ様。
(・・ん?)
ふっと、意識を取り戻した田天。あれからどれだけの時間が経ったのかは分からないが、たしかに自分は生きている。九つの玉の破裂で確実に死ぬと思っていた彼だが、どうやら体に異変はないようで、ただ気絶していただけのようだった。
ドシン、ドシンと大きな振動が体に伝わる。いま田天はヤマタノオロチ様の背中に乗せられているみたいだ。ヤマタノオロチ様は黙って、何もない質素な鉄の通路を進んでいる。
(なるほど、今から真のボスに会いに行くわけか。
にしてもこの体、一切ダメージを受けた感じがしない・・考えてみたらあの攻撃、なんの痛みも感じなかったぞ。
もしかして・・迫力と魔力だけの、見かけ倒しのはったり攻撃だった?殺すつもりなんて無かった・・?)
赤い扉にさしかかった。ヤマタノオロチ様は「開けヤマタノ扉」と唱え、扉を開けた。コゴゴと音をたてゆっくりと扉が開くその様子を、田天は薄目で覗いていた。
開かれた扉の先には、明るく賑やかな楽園のような巨大な広間があった。大勢の女性、大量の金貨や食べ物の数々、そして植物や動物も見られる。
女性たちはみな楽しそうに過ごしており、その光景を見た田天は状況がつかめなかった。
ヤマタノオロチ様は広間の中心にある大きな通路を通り、奥へと進んでいった。そしてたどり着いた先には大きなソファーに、女性四人と座り楽しそうに談笑している男がいた。オールバックにした茶髪に、無精髭。イケメンではあるがなんともエロそうな男である。
男はヤマタノオロチ様に気がつくとソファーから降り、こちらに歩いてきた。立ち止まった男に対し、ヤマタノオロチ様は深々と頭を下げた。この男が真のボス、そう確信した田天はローブのフードを深々とかぶる。
「ごくろうだったぞ、ヤマタノオロチ。」
「はい・・。」
田天を静かに床に置くヤマタノオロチ様。その田天のほうへ歩み寄る男の足音に、田天の心臓の鼓動が激しくなる。
「アロマよ、会いたかったぞ!
さぁ久々に俺にその顔を見せてくれぇ!」
田天の上半身をガバッと起こし、フードを取り去る男。もちろんそこにはアロマの顔は無く。
「わああああああ誰だあああああ!!」
「え・・と、田天っていいます・・。」
その場に転がる髭の男。ヤマタノオロチ様は目を丸くして固まっている。
「ヤマタノオロチ!これはどういうことだ!アロマじゃないじゃないか!」
「お、おかしいですね・・こんなはずでは・・。」
先程と同じ声の低さで焦るヤマタノオロチ様。男は田天の胸ぐらをつかみ、顔をよく見た。そして
「田天・・といったか?お前、まさかアロマの変わりにここに来たのか?魔物たちを騙して。」
「えーと・・はい。」
つかんでいた田天のローブを放すと、男は頭をかき、三秒間ほど黙った。そして田天のほうを振り返り、笑みを浮かべながら喋りだした。
「初めまして田天。
俺の名はバジル。アロマの、父親だ。」