身代わり
部屋の中にいたアロマは、来ていた作業服を脱ぎ終え今まさに黒いローブを着ようとしていた。上下ともに下着だけであったため、田天と目が合ったアロマは固まってしまう。
「あ・・・あの・・・。」
「あ、いや!ごめん!・・!!」
申し訳なさと焦りで頭の中が真っ白になった田天であったが、アロマが右手に持っているローブを見て当初の目的を思い出した。首を犬のように横に振り、目つきを変えた。そして下着姿のアロマの方へ歩いていく。
「え!?な、なんですか!?」
「アロマさん、決めました。やっぱり僕はあなたを救おうと思います。」
そう言うと彼はアロマの手からローブを取り上げた。突然のことに戸惑いを隠せないアロマ。
「あの・・いったいどういうことでしょうか・・?」
「・・服を着て、ここで待っていてください。あいつらのところに行く必要はありません。
全てを・・終わらせてきます。」
田天はさっそうと部屋の外の階段を下りて行った。お店でローブに着替えた彼は、バンパに声をかけられた。
「大丈夫なのかい?田天君。無事に帰って来る自身はあるのかい?」
「はい、大丈夫です。彼女によろしく言っておいてください。」
「それ、死亡フラグじゃないのかい?ほんとに大丈夫?」
バンパが話している最中にお店から出て行ってしまった田天。その後ろ姿を見て、バンパは謎の安心感を抱いた。彼ならやってくれるかもしれない。そう思わせる何かが感じられたのだ。
部屋に残されたアロマは、少し考えると田天の行動の理由をすぐに理解できた。しかしお店に降りるとすでに彼はいなかった。そこに腰かけていたバンパに問いかける。
「田天さんは?」
「行ったよ・・君の為にね。」
「なんで止めなかったんですか・・?」
「君は感じなかったかね?彼の中に眠る・・可能性を。」
黒いローブを身に着けた田天は、アララの入り口で魔物たちの前に現れた。顔が見えないようにローブのフードを深くかぶる田天。魔物たちは若干の違和感を覚えたが、正体が全く別の男だということに気が付いていない。
「・・準備ができたのなら、行こうか。」
一匹の魔物がそう言うと、その場の全ての魔物が向きを変え、村とは逆の方向へ進んでいく。
(ばれて・・ないのか!?あきらかに身長が違うからダメかとも思ったけど、マジか。
てか、顔確認しないんだ・・本当に良かった。)
少し歩くと巨大な祠に着いた。そしてコウモリの魔物が「開け、ヤマタノ扉」と唱えると祠の前の地面がぐらぐらと揺れ、大きな階段が出現した。驚愕する田天を魔物たちはその中に案内する。
地下深くに進んでいくと、広い部屋に出た。そこでヤマタノオロチ様が部屋の中央に動き、この日初めて口を開いた。
「ごくろうであったぞ、皆の者。もうよい、我とアロマを残して全員出ていけ。」
思った通りの低い声で部下たちに命令するヤマタノオロチ様。その一声で三十秒もたたずに部屋の中は田天とヤマタノオロチ様の二人だけになった。
「さて・・。」
じろりと田天をにらむヤマタノオロチ様。田天はビビりながら、右手に魔力をためようと試みた。
目の前の化け物はたしかに恐ろしい。こんなやつが現世で現れたら、まず間違いなくニュースになるだろう。
でも大丈夫。一撃で葬り去れば問題ない。そう考えながら光刃発動の準備にとりかかる田天。
しかしやはり、魔力が溜まらない。もちろん右手は光らず、ただ手汗だけが溜まる始末だ。
(やばいやばいやばい・・やばいぞマジで。死ぬじゃんこれ。)
「お前はこれから別室に移ってもらう。この部屋には今我とお前しかいないから本当のことを話すが、我はボスではない。この部屋にある隠し扉の奥、そこに本物のボスがおられる。
そこに一緒に来てもらう。」
(そうだったのか・・だとしたらアララに年に一回来てるのはこいつの命令じゃなくて、そのボスの命令か。)
「とは言っても・・」
ヤマタノオロチ様の目が赤く光る。嫌な予感がバリバリの田天にヤマタノオロチ様は・・
「死体の状態で連れていくがな。」
(やっぱそうきたか~・・)