心優しきエルフの娘
噴水から少し離れたところにある公園でひとまず休む田天。服はずぶ濡れで気持ちが悪い。お金も無いしでさんざんである。
「どないしよ・・。フレイラにもう一回お金もらうか・・無理そうだなぁ。」
ベンチに腰掛け頭をガックシと下げる彼の姿は、ルシフェル様の面影すらない。
小鳥のさえずりが聞こえる。公園で遊ぶ子供達の声も。ほんとうにのどかで、ハーランドと激闘を繰り広げたギルデガールの町と比べてしまう。
「・・しょうがない、我慢するか。」
そう決心し、服を手で絞り水分を追い払おうとする田天の前に、人の影が映った。そして声をかけられた。
「だ、大丈夫ですか!?びしょ濡れですけど・・。」
絞る手を止め顔をあげる田天。そこにいたのは・・
茶髪のポニーテール、きれいな緑色の瞳、そして長く尖った耳。田天と同じかちょっと上くらいの年齢だと思われるその女性はとても美人で、田天は一瞬固まってしまった。
「あの・・聞いてますか?」
「へ?
・・ああ、聞いてますばっちり聞いてますよ!はは・・・」
我に返り、笑ってみせる田天を、女性は心配そうな顔で覗いていた。
「この村の方ではありませんね、外から来られたんですか?」
「はい。た、旅してましてね。さっき向こうの噴水に落ちちゃって、このざまです。ははは・・え?」
強がって笑う彼の手を掴み、ベンチから立ち上がらせる女性。田天はきれいな女性にいきなり掴まれ緊張する。しかし状況をつかめない彼は、
「あの・・なにを?」
「私のお店に行きましょう。あなたがお風呂に入っているあいだに、代えの着替えを用意します!」
「え・・。」
女性に引っ張られる田天だったが、彼女の行動力と優しさに感心してしまっていた。その後ろ姿はとても凛々しく、フレイラやサラとは違った魅力が感じ取れた。
大柄のルシフェルの体をぐいぐいと引っ張り、女性はパン屋の前で止まった。屋根のところに、『アロマのパン屋』と書いてある。くるんと振り替えった彼女はニコッと田天に微笑んだ。
「ここが私のお店です。
さぁ、お風呂場を使ってください。」
「あ・・はい、あ、ありがとうございます。」
おどおどする田天は彼女に言われるがまま、ゆっくりとお店の中に入っていく。
「いらっしゃい!
あ、アロマだったか。ん?そちらの方は?」
お店のカウンターでは優しそうなおじさんが、眼鏡越しに田天を覗く。
「そこの公園でこんなにずぶ濡れで座ってたんです。シャワーをかしてあげていいですか?」
「ああ、もちろん。」
とても和やかな雰囲気。パンの匂いもあり、田天は自分がびしょ濡れであることも忘れ、なんだか幸せな気持ちになっていた。