二匹の悪魔
「ここでのお前の名はたしか・・田天だったな。
田天、お前にはこれから我々の儀式につきあってもらう。今すぐ、ここでな。」
先ほどから喋っているのは二匹のうち水色の悪魔の方で、白い悪魔の方は全く口を開かない。
「儀式・・?」
「簡単に言うと、お前には今から堕天使・ルシフェルになってもらう。」
「堕天使・・ルシフェル・・・え?」
水色の悪魔の話を、キョトンとした顔で聞く田天。田天の中のルシフェルについての認識は「神に逆らった天使」といったもので、自分がルシフェルになると聞いても意味が全く分からなかった。
水色の悪魔は話を続けた。
「まぁわけがわからないかもしれないが、お前は黙って従っていればよい・・
と言いたいところだが、そのか弱いメンタルがゆえに絶望してしまったお前の為に優しい私が少し説明をしてやろう。」
少し笑みを浮かべながらそう話す水色の悪魔を、白い悪魔は横目で見る。
「そもそもルシフェルという者はこことは異なる、別世界に今も存在している。やつの強大な力とずば抜けた行動力には我々も困り果てているのだ。
しかし今はとある事情で、やつは衰弱しきっている。おそらく今のやつなら我々二人がかりでかかればやれるだろうがあえてそうはせず、「ある計画」を実行することにしたのだ。
それが今から行う、「新ルシフェル誕生の儀」だ。端的に言うと、今のルシフェルの精神を抜き取り、新たな人格を埋め込むというものである。」
「・・・。」
田天は弱り切ったその精神状態のまま、しっかりと悪魔の話を聞いていた。
なんとなく、本当になんとなくだが状況がつかめてきた田天。
「そしてこの計画に必要な力が二つあった。一つは新たなルシフェルの人格を探し出すこと。これに関しては私の「あらゆる異世界間を自由に移動できる」という能力を使い、そしてお前にたどり着いた。夢にまで入り込めるなんてすごいだろ?
もう一つは人格の埋め込み。これに関しては・・」
「そこまでにしておけ」
白い悪魔が初めて口を開き、話を止めた。
「ちょっと言い過ぎたかな?悪い悪い。」
ハハハと笑う悪魔の前では田天が下を向いていた。
「俺の人格が・・埋め込まれる?」
「さて、話は以上だ。始めるぞ。」
「ちょっと待った!事情は呑み込めたが、なんで俺なんだ?なぜ俺が選ばれ・・」
「うるさい。」
悪魔の手刀で倒れこむ田天。
「そちらの世界ではかなり苦しんでいたみたいだが、残念だったな。ルシフェルになったら比にならないほどの苦しみがお前を襲うことだろう。」
話す水色の悪魔の隣で、白い悪魔が魔力をためていた。右手に灰色の光が集まっていく。
そしてその手を田天にかざす。
「・・始めるぞ。」
白い悪魔の光が田天を包む。そして彼の脳を刺激していく。
「ぐあああああああああああああああああ!!!」
激しい頭痛が田天を襲う。それを無表情で見る白い悪魔。
転がりながらもがき苦しむ田天に水色の悪魔は話しかける。
「ククク・・次に会うときは、我々を歓迎してくれるだろう。
いったんお別れだ。田天、いや・・堕天使ルシフェルよ。」
「うああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
(ここは本当に俺の夢の中か?
なんだこのシャレにならない苦しみは、なんだこの・・強烈な痛みは・・!
現実でも夢でもこんななのか、俺の人生は。
もうわかったよ・・やっとわかった・・・苦痛からは逃げられないんだな・・これまでも・・これから・・も・・・)
吹き飛びそうな意識の中、絶望をさらに強いものにした田天。そしてそこで田天は力尽きた。