放たれた刃
田天はゆっくりと、落ち着いて右手に魔力を集めた。やがてその手は強い光を放ちながら、黒いスパークをまとった。神々しく、禍々しく光る田天の右手。それを見たマルクやサラ、フレイラは確信した。「ついに、決まる」と。
目の前の光景に、止まっていたハーランドはハッと我にかえり、魔力を感じるやいなや田天と距離をとった。ハーランドは自分がおかれた状況を確認する。渾身の一撃を防がれ、今自分からはものすごい量の汗がふき出ている。こんなことは生まれて初めてだ。「やばい」「怖い」「負けてしまう」、さまざまな負の感情が頭のなかを駆け巡る。
そして目の前の田天の様子を見て感じた。やばい一撃が来る・・。
逃げるしかない。超スピードで避けるしか・・
「が、がんばれハーランドおお!!」
「負けるなあああ!!」
「ハーランド!ハーランド!」
(!!)
聞こえてくる歓声。ここまで応援されたのはいつ以来だろうか。
思えば今までは楽な戦いだった。適当に手を抜いても余裕で勝てた。観客もそれに気づいたのか、最近はさめた反応をする者も出てくるしまつ。
でも今は違う。みんなが期待してくれている。
(そうだった、私は闘神ハーランド。逃げる?避ける?ふざけるな。そんなことはそもそも私の辞書には載っていない。
せっかくこんなに強いやつが目の前にいるのだ・・最後まで、戦士としての誇りをかけて・・戦いたい!!)
目付きが変わるハーランド。マクリアンを手に取り、再び闘気を込めた。
「来いルシフェル!!逃げも隠れもせん!お前の一撃、受けきってやろう!!」
おおおお!と沸き上がる会場。それとは対極的に、恐ろしく冷静に右腕を構える田天。魔力を最大限まで高めた右手を、横一線に振り切った。
「くらえ・・・!」
その日、ギルデガールの町から雲が消えた。
正確には、光の刃がそれを切り裂き消滅させたといったほうがいいだろう。それは一瞬の出来事であった。
ステージには、攻撃を終え静かにたたずむ田天の姿があった。その目線の先には・・
血を大量に流し、膝をついているハーランド。金の兜も鎧も、粉々に砕けていた。無惨に散らばるその破片の中心では、闘神と呼ばれる男が瀕死の状態で血反吐を吐いていた。