死闘
「犬の仮面くん、まさか本当に戦うことになるとはね。」
柔らかいしゃべり方で田天に話しかけるハーランドだったが、兜の向こうに見える目は笑っていない。冷酷なその目は、田天の精神を刺激する。先ほどまで自分を落ち着かせていた田天だが、今になって恐怖を感じてしまう。
手汗が凄い。足も少し震えている。
「あいつ、大丈夫か?」
「思ったよりは落ち着いていますが・・やはり少しずつ怯えいますね。」
「・・・。」
ステージ上の田天の様子を見て心配するマルクとサラ。唯一、フレイラだけは腕を組み壁にもたれて、黙っている。
「フレイラ、お前は心配じゃないのか!?」
「・・ま、黙って見てよう。」
ニヤリと口角をあげるフレイラに、マルクたちは疑問を持つ。
「さぁ、では始めましょう!
ギルデガール闘技場王者・ハーランド!!
バーサス!
謎の挑戦者・ミスター・L!!
バトルゥ、スタート!!!」
司会者が試合の開始を告げた。身構える田天。
ハーランドは無言で剣を構え、その場で力を解放した。彼の回りで風が吹き荒れ、やがてその風は観客席にまでとどいた。会場が激しく揺れる。悲鳴や歓声が入り雑じり、闘技場の中は混沌としている。
「分かるか?ミスターL。これが『闘気』だ。
体内に存在する『気』。それに『絶対勝つという強い“意志“』を合わせて、より強力にしたものが闘気だ。
そして私は今、この闘気を最大まで高めている。分かっているとは思うが、本気でお前を殺しにいく。これはお前の仲間との約束でな、恨むならあの天使を恨みな。
さて始めようか・・久々の、死闘だ!!」
爆発音のような音をたててその場から消えたハーランド。それを目で追う田天だったが、全く反応ができない。
(ぜんぜん見え・・)
ザシュっと、背中を切られた感触がした。振り替えるがハーランドのかすかな残像しか見えない。
(まずいぞ、反応できてない・・
いや落ち着け。落ち着け田天。ここで劣等感を感じたら今までと同じじゃないか。
勝てる。俺はこの勝負に必ず、絶対、100パーセント勝てるんだ。)
田天は目をつぶりその場で立ち尽くす。超スピードで動き回るハーランドはその様子を冷たい目で見て、動きをさらに速めた。
(あいつ、諦めたのか?構えすらとらなくなったぞ?
許さん。私がせっかく本気でやってるのに、すぐに勝負を捨てるなど決して許さん。
次で決めてやる。)
地面を強力な脚力と闘気を使って蹴り、凄まじい速さで田天を背後から襲うハーランド。もはや彼には、田天が“獲物“にしか見えていない。