覚悟
「フレイラさん!?」
朝から姿を見せなかったフレイラだったが、こんなところにいた。通路の壁にもたれかかり腕を組んでいる彼女は、上を向きながら喋りだす。
「その顔じゃ、結局光刃はまだ出せていないみたいだな。
いいか?田天。お前が技を出せない理由はおそらく『心の弱さ』が原因だ。ルシフェルができてお前ができない。その二人の違いを考えたらそういう結論に至ったよ。本物は勇敢で強気なやつだったらしいしな。」
「・・・。」
田天は足を止めて、フレイラの話を聞いていた。
「ハーランドはマジでお前を殺しにくるぞ。お前、今のままの状態で死んでいいのか?」
「それは・・みんなに迷惑かかるし・・」
「そうじゃないだろ!」
壁から離れたフレイラは田天の肩をつかむ。身長が30以上離れてる田天とフレイラだが、彼女は強気に田天を見上げる。
「これはお前のための戦いなんだ。負けたら私たちに申し訳ないとか、ルシフェルに悪いとか、そんなことはどうっっでもいい。
お前が変われるかどうか。それを確かめるための戦いなんだよ。
失敗してもいいじゃないか。ダメでなにが悪い。
やれるだけやって、自分の限界を出しきって、それでもダメだったとしても誰も責めないよ。その時は私がかわりにハーランドを消してやる。
失敗をおそれてたら、不安をかかえてたら実力なんてまず出ない。
失敗を恐れて失敗してたらもったいないぞ?失敗を恐れず、失敗してこい。田天。」
強気で言葉を吐いていたフレイラだったが、いつの間にかその顔はとても優しく柔らかいものに変わっていた。
そんなフレイラを見て、田天はなにも言葉が出なかった。反論はおろか、返事すら返せない。ただ、黙って頷いた。
「そろそろか。骨は拾ってやるから安心しろ。」
「はは・・じゃあ頑張って骨だけは残さなきゃね・・。」
「頼むぜ。じゃ、客席に行くとするかね。」
田天の背中をとんとんと軽く叩き、フレイラは歩いていった。手を振りながら長い金髪をなびかせながら歩くその悪魔の姿を、田天は黙って見送った。
(フレイラさん、ありがとう。
俺、自分の性格が嫌いだ。そして正直、この先この性格が治るビジョンが全く見えない。
でも、この命がかかった試合というシチュエーション、現世では体験できないこの状況。ここが、俺が変われるチャンスなんだよな。
今までみたいにもう逃げられない。ここで・・ここで変わるしかないんだ。
失敗を恐れず失敗してこい、か。なんだか気が楽になったよ。)
フレイラに背を向け、ステージに向かう田天。先ほどまでの不安は無くなっていた。決戦をひかえたその男の足どりはゆっくりと、そしてどこか堂々としたものに感じられた。
「さぁ!入場してきました!王者ハーランドに挑む今回の挑戦者!
謎の男こと、『ミスター・L』ぅ!!」
大歓声の中ステージに上がる田天。観客による歓声が会場中に響きわたる。
「待ってましたあああ!!」
「伝説を見せてくれええ!!」
「ハーランドに負けるなああ!!」
「ミスターL!ミスターL!」
観客によるミスター・Lコールが始まった。しかし田天は軽くお辞儀だけして、調子に乗ることはなかった。
目の前には、王者ハーランドが立っている。金の鎧に愛剣マクリアン、そして昨日はつけていなかった金の兜までつけている。本気で来る。改めてそれを理解した。