宣戦布告
夜が明けた。5時に目覚めた田天は、まだ寝ているマルクたちを起こさぬようにそっと着替えて外に出た。もちろん、犬の仮面をしっかりとつけて。
そしてギルデガールから出て、昨日の荒野に向かった。
「昨日の復習だ。今日こそ、“光刃“を成功させるぞ。」
マルクとの特訓で結局ものにできなかった、ルシフェルの技“光刃“。それを成功させるために、今日の田天は早起きをしていた。
もちろんハーランドに勝つための特訓ではなく、あくまでもこれからの冒険のため、そして昨日付き合ってくれたマルクのために田天はこの荒野にやってきたのだった。
右手を少し上げ、意識を集中させる。余計なことを考えないように、目をつぶりただ右手に意識を向けることだけに神経を使う。
「・・・。」
静かな時が流れる。荒野にはルシフェルの姿をした田天ただ一人。吹く風が、ルシフェルの白髪を揺らす。
「“光刃“!」
勢いよく右手を振る田天。しかしその手は空を切るだけで、なにも特別なことは起きなかった。
(なにが足りない・・なにが・・)
「おーい!田天!」
声をかけられ振り向くと、町のほうからマルクが手を降っていた。横にはサラが立っており、なんだか眠そうだ。
「マルク。ちょうど光刃の練習をしてたんだ。」
「ほう。で、どうだ?」
「やっぱり無理みたい。」
「そうか・・。」
残念そうな顔をするマルクに、さらに申し訳なさを感じてしまう田天。そんな彼をサラは、ため息をつきながら見ていた。
その時であった。ギルデガールの町から町内放送が聞こえてきた。声の主はハーランドだ。
「町のみんな、朝からすまない。今日の大会について話がある。
今日は私と、謎の男によるスペシャルマッチが行われる。そこで私は、久々に本気になろうと思う。伝説を目にしたいそこの君は、ぜひ闘技場に足を運んでくれ。
戦いは12時ちょうどに始める予定だ。以上!」
「謎の男・・?」
それが自分のことだと分かっていない田天の肩を、サラがポンポンとたたく。
「あなたです、田天。」
「・・へ?」
事情を全て話すサラ。それに驚くマルクであったが、当然それ以上に驚いたのが田天だ。
「そんな・・まだ技すら使えないのに・・うっ。」
急に吐き気がやってくる。めまいも凄かった。
11時40分。田天とマルク、サラは闘技場の控え室にいた。足の震えが止まらない田天にマルクが声をかける。
「い、いざとなったら飛んで逃げろ。な?」
「・・飛びかた分からないんですけど。」
「うっ・・・」
「あんな化け物が本気でかかってくる・・普通最初の敵って弱い魔物とかでしょ?なんだよ闘神って。ラスボスの格じゃん。」
時計の針が無情にも12時に迫る。それにともない、田天の震えも激しくなる。
絶望や不安が押し寄せてくる。現世にいた時と一緒。
(ルシフェルの体を手にいれても、結局同じじゃないか・・)
「謎の男さん、お時間です。」
今大会の係員が控え室にやって来た。田天はゆっくりと立ちあがり、地獄の底のような顔をしながら係員についていく。
「田天!私はあなたを信じています!これはルシフェル様奪還のための試練なのです!」
サラの言葉に小さくうなずく田天。そもそもこの事態を招いたのはサラなのだが、田天にそんなことを考えている余裕はなかった。
闘技場までの道を歩く田天。足どりはとても重い。
(ここまでだ。俺の人生、間違いなくここで終わりだ。ほんとにくそみたいな人生だったなぁ。)
そんなことを考えながら下を向いて歩いていると、前方の黒い靴が目にはいった。
顔をあげるとそこには、フレイラが。
「よぉ、元気か?」
※ちなみにルシフェルの技「光刃」の読み方は、「コウバ」です。