タフ
ハーランドの額から汗が流れた。相手を休ませるつもりで与えた時間に実は自分の体力をごっそりともっていかれ、ほぼ全回復したサラと比べるとかなり不利な立場に立たされている。
サラは両手を合わせ、その接着面に青い光を集めた。そして魔力を解放する。
「守護術・第5番“防御の箱“」
サラが合わせていた手を広げると、透き通った光の箱のようなものが出現しサラを囲った。
「防御技・・なるほど。私の攻撃を耐え抜き、体力が尽きるのを待つ作戦か。
俺もなめられたものだな・・!」
凄まじい跳躍でサラのもとに向かっていくハーランド。サラは光の箱のなかで、落ち着いてその様子を眺めていた。
ハーランドは防御箱を攻撃しはじめた。彼から繰り出される鬼のような連打は、箱に当たるたびに大きな音をたてる。サラが無音の剣を使っていなければ、その衝撃音はギルデガールの町までとどいていたかもしれない。
「もうかなり体力をうばっているはずなのに、よくこんな強烈な攻撃を放てますね。
私たち天使にとってあなたのような純粋な格闘タイプはかなり得意とする相手。ひたすら守りに徹して、疲労したところに一撃叩き込めば良いですからね。」
「うらあああ!!」
サラの話も聞かずただ一心不乱に打撃を続けるハーランド。そしてついに、防御の箱にヒビがはいった。
「かああああ!!」
そしてハーランドは渾身の力で、その箱を壊してみせた。箱のなかにいたサラは意外にも落ち着いた顔をしている。
箱を壊すやいなや、ハーランドは回し蹴りを繰り出す。その足先はサラの顔面に向かうが・・
「守護術・第50番“神の鉄槌“」
足がサラの顔面をとらえるより前に、サラの放った光の砲撃がハーランドを襲った。直径10メートルはあるその砲撃はハーランドに直撃し、彼はそのまま地面に叩きつけられた。
サラは空中からゆっくりと降り、静かに着地した。そしてハーランドが叩きつけられたあたりを見る。しかし、砂ぼこりや霧でその姿が見えない。
(神の鉄槌・・天使の技のなかでもかなりの破壊力を誇る技・・。
それを相手の動きに合わせカウンターで撃ち込みました・・もはや彼は戦闘不能でしょう。)
「なるほど・・たしかにフレイラよりも手こずってるわ。」
「!!」
砂ぼこりの中から聞こえるハーランドの声に、サラは驚愕した。突然、金色のオーラが発せられ霧や砂ぼこりが振り払われた。その中心には、ハーランドが立っていた。口から少量の血を流しているが、なぜか笑っている。
「バカな・・あの距離で、カウンターで神の鉄槌を受けて・・立っている・・!?」
「血を流したのなんていつ以来だろうか。もう覚えてないや。
まあいい。女天使よ、楽しい思い出をありがとう。
もう十分だ。」
ハーランドの目付きが鋭くなる。嫌な予感がしらサラはとっさに魔力を高める。
「しゅ、守護術・第1番“守護の盾“!」
サラが光の盾を出現させたと同時に、ハーランドが消えた。超スピードで動いていることは確かなのだが、サラはそれに全く反応できない。
勘で後ろを振り向くサラ。しかしハーランドはいない。
「ここだ。」
前から声がし、とっさに顔を戻す。ハーランドは光の盾の前で拳を構えていた。頭が真っ白になるサラ。
「砕け散れ。」
ハーランドの放った拳は守護の盾を貫通し、再びサラの腹部をとらえた。体力が減っているはずの彼の一撃は、先程よりもはるかに重く感じた。
「・・・!」
声もでないサラ。その場で倒れてしまった。
(つよ・・すぎる・・!)
「女天使よ、名は?」
「サ、ラ・・・。」
苦しそうに話すサラに、ハーランドはポケットから出したカプセルを投げ渡した。カプセルはコロコロとサラの顔のところに転がった。
「そいつの中身を飲めば回復する。」
「心配、ご無用・・・回復薬は・・所持しています・・から・・・。」
「そうか。
悪いな。私の一番の自慢は破壊力でも技術でもなくそのタフさなもんでな、あの程度の攻撃ならまだまだ耐えられるのだ。
なかなか楽しめたぞ、サラ。勝負には勝ったがお前の望みを聞いてやろう。
明日の試合、全力で戦ってやる。」
そう言うとハーランドはクルッと背を向け、ギルデガールの町に帰っていった。その後ろ姿は、とても体力を大幅に失っているとは思えないほどたくましく見えた。
「ありがとう、ございます・・。」
傷つきながらも、なんとかポケットから回復薬を取り出すサラ。その顔には、任務を遂行できたことへの満足感からか小さな笑みがこぼれていた。
筆者コメント
こんにちは、筆者のシリンダです。
いつもこの小説を読んでいただきありがとうございます。
最近ブックマークの数が増えてきており、モチベーション向上に繋がっています。ありがとうございます。
では読者のみなさん、これからもよろしくお願いしますm(_ _)m