天使の実力
飛んできた“邪恨の槍“を最小限の動きでヒョイっとかわすハーランド。つまらなさそうな顔で空中にいるサラを見上げる。
「あんな遅い槍、当たらんのだが?」
「では、これはどうでしょうか?」
サラはまたしても右手に青い光を集め、剣を出現させた。そしてその光はサラの全身をおおう。
「参ります・・!」
その場から消え、サラはハーランドの懐に潜り込んだ。右手の剣を構えたまま。
そのまま剣を振り上げた。
「おっと。」
ハーランドはそれを素手で弾く。その刹那、サラは右足に光を集中させ回し蹴りを繰り出した。ハーランドはとっさにガードする。
「・・っ!」
「まだまだぁ!」
サラの猛攻が始まった。右手の剣、左手の拳、両足の蹴りを駆使してハーランドに攻めこむ。防戦一方のハーランド。
しかしそれも長くは続かなかった。
「・・さて、いくかね。」
ハーランドはサラの左手の拳に合わせて、カウンターで攻撃を仕掛けた。ハーランドからの初めての攻撃は、サラの腹をとらえた。
「がっ・・!」
吐血するサラだったが、すぐに上空に飛びハーランドと距離をとった。
「んー、天使にしてはなかなかの格闘技術を持ってるじゃないか。攻撃時に魔力をそれぞれの部位に集中させ攻撃力を高め、さらに瞬時に次の攻撃に合わせて魔力を移動させる・・やっぱり面白いな、お前らは。」
「・・どうも。」
「だが、まだまだ弱い。正直今のところ、フレイラのほうがまだ強いってところだな。あいつの変身した姿相手には久々にマジになってしまったからな。」
「・・質問をしてもよろしいでしょうか?」
「ん?」
「あなた、人間ですよね?ただの人間がどうしてそのような強大な力を・・?」
「・・・。」
ハーランドは、この質問がただの時間稼ぎであることに気がついていた。この隙に体力を回復させるつもりだと。
だが自分の強さに絶対的な自身がある彼は、その作戦にひっかかってあげることにした。
「私は幼い頃から『闘気』に長けていた。闘気を放つだけでも大人に勝つことができるほどにな。
そんな私の闘気を評価した親が、私を勇者の谷という場所に送った。そこは将来の勇者候補の人間を育成する場所で、過酷な特訓の日々が続いたよ。」
「・・。」
ハーランドの話を聞きながら、サラは少しずつ魔力による治癒を行っていた。それを見抜くハーランドであったが、話を続けた。
「私の闘気と抜群の格闘センスは他を凌駕し、すぐに『過去最高のルーキー』と呼ばれるようになった。特訓一年目でドラゴンを八つ裂きにできるようになり、三年目でマスタードラゴンに競り勝った。
そして谷を出る頃には、マスタードラゴン二匹を楽々倒せるようになった。全ては私の『人間の域を超えた格闘技術』と『規格外の闘気』によるものだ。
分かったかい?」
「・・はい、答えていただきありがとうございました。」
サラの顔色が目に見えて回復していた。ハーランドはやれやれといった表情でサラを見る。
「もう回復のチャンスは与えんぞ?
まったく、休む暇を与えられただけではなく私の生い立ちまで聞けるなんて、お前はラッキーだな。女天使。」
「はい、とてもラッキーです。しかしなにより幸運なのは、この戦いに勝てることでしょうか。」
「・・なに?」
したり顔で語るサラに、ハーランドは疑問を抱いた。回復したところで自分に勝てるわけがないのに・・。
しかし疑問はすぐに解決することとなった。ハーランドの体が、いつのまにか重くなっている。あり得ないほどの疲労感が彼を襲う。
「な、なんだこの疲労は・・ど、どういうことだ?」
「やっと効果が出始めましたか・・“邪恨の槍“の効果が。」
「!?」
ハーランドが振り向くと、地面に突き刺さった邪恨の槍から、黒い霧が出ていた。よく見るとその霧は、ハーランドのまわりにも立ち込めていた。
「夜だから目立っていませんが、邪恨の槍は霧を発生させる技なんです。相手の体力を、徐々に奪う霧を。」
「・・おのれ!」
「あなたの慢心を利用させてもらいました。あれだけの時間霧を吸い込んでいたんです。もはやあなたに、私を倒す力は無い。」
そう言い放つサラの目は、天使とは思えないとても冷たい目をしていた。