無音の戦い
「・・なんだい?用って。」
目を擦りながら答えるハーランドに、サラはよっていく。
「明日の大会で、私たちのチームにいた犬の仮面の男を指名してほしい。そして本気で、殺すつもりで戦ってもらいたい。ダメでしょうか?」
「犬の仮面の男・・ああ、いたいた。全く魔力も闘気も感じなかった彼ね。
・・で、なんでそのような頼みを?」
「彼はまだ弱い。戦力的にはもちろん、なによりも心が弱すぎる。あなたとの試合はそれを克服する絶好の機会だと私は考えています。彼の覚醒のために、どうか力をかしてもらえないでしょうか?」
ハーランドは話を聞きながら部屋の冷蔵庫から飲み物をとり出し、コップに移す。そして少し飲んで答える。
「私がマジでいったら、100パーセント死ぬよ?彼。」
「・・かもしれません。でも、これは必要なイベントなのです。
彼の力の覚醒のためにはより強い恐怖、絶望に立ち向かうことが不可欠だと考えています。弱い魔物や、まして私たちが相手をしても彼の心の成長にはつながりません。ですがあなたなら話は別です。彼の心に刻まれたあなたの強さに彼が立ち向かえたとき、間違いなく彼は進化するはずです。」
強く言い放つサラを見て、コップを置き窓際に戻るハーランド。
「ではこうしよう。今から私とお前が戦い、お前が勝てば望みを聞いてやろう。」
「なっ・・!」
目が見開くサラにハーランドはニヤリとした顔を見せる。
「おや?まさかただでお願いを聞くと思ったのか?
お前もあの女悪魔の仲間ならなかなかやり手なんだろう?私はまた昨日のような興奮を味わいたいのだ。」
冷や汗がサラの頬をつたう。しかしすぐに答えを出す。
「・・分かりました。では町の外の荒野でやりましょう。ここだと目立ちますから。」
「よしきた!着替えてくるから先に行ってていいぞ。」
「・・はい。」
荒野に到着したサラはゆっくりと精神を落ち着かせた。そして、静かに魔力を高めはじめた。
(田天に戦わせようとしているのです。私が逃げられるわけがないでしょう。
すみません田天、あんな頼みをしてしまって。しかしこれが、ルシフェル様奪還のための最善策なのです。)
「待たせたな。」
現れたハーランドはなんと布の服を着ているだけで、剣や鎧は装備していなかった。
「・・武器はどうしましたか?」
「置いてきた。防具もな。これくらいのハンデはやるよ。」
「なめられたものですね・・守護術・第16番“無音の剣“!」
サラの左手に、透き通った剣が出現した。そしてそれを、足元に突き刺した。
「なんだね?それは。」
「この剣から半径100メートル以内で鳴る全ての音は、その外部からは聞こえなくなります。今は深夜。戦いの音を町に響かせてはいけませんからね。」
「さすがは天使様、お優しいことで。」
「・・言っておきますが、私はフレイラよりもやっかいですよ?覚悟はよろしいでしょうか?」
「よろしいよ。」
そのわりに、全く構えをとらずあくびをもらすハーランド。サラは宙に浮き、右手をハーランドにかざす。
青い光が、その右手に集まる。
「守護術・第34番“邪恨の槍“・・!」
光から放たれた銀色の槍は、ハーランドめがけて一直線に突き進む。