それぞれの夜
特訓を終えて町に帰ってきた田天とマルク。両者、ひどく疲れた顔をしていた。
「お、特訓終わったか!おーい!」
田天らに気づいたフレイラは声をかける。そのときにはサラも服装を変えていた。
「おぉ、服を買ったのか。似合ってるんじゃないか?フレイラ。」
マルクはフレイラの、ドクロの服を褒めた。まんざらでもないフレイラに、腑に落ちないサラ。
「マルク、あなたも一応天界の者なのですからドクロを誉めるのはちょっと・・。」
「俺は良いものは立場に関係なく褒めるぞ。
しかしサラ、お前もなかなか良い服を買ったな。」
「いや、あの・・。」
フレイラがサラに選んだ服は、白のワンピースだった。もとが綺麗な女天使なだけあって、とても似合っている。そう心の中で感心する田天であった。
「俺も似合ってると思うよ。」
「・・あなたに言われると、なんだかルシフェル様に褒められているようで照れますね・・。
もちろん、中身は天と地の底くらい差がありますけど。」
ニッコリと答えるサラ。100点の笑顔でなかなかにきついことを言い放つ。
「はは・・天と地ですらないんだ・・。」
「ところで田天、技は習得できたか?」
「それが・・。」
「ん?どうした?」
田天はフレイラの前で右手を天にかかげた。そして、
「゛光刃゛ぁ!!」
大きな声で技名を叫ぶ。しかしなにも起こらなかった。
「・・ぜんぜんできませんでした。テヘッ・・」
「テヘッじゃねーだろ!!」
「まあ当然と言えば当然です。ルシフェル様の偉大で高等な技の数々、中身がただの人間であるあなたが簡単に使えるわけがなかったのです。」
「え、じゃあ俺もうずっとこのまま!?」
「かもなー。はははは!」
「笑っちゃってるよこの人。」
なごやかな雰囲気で会話しているが、田天はかなり気にしていた。みんなの期待には答えたい。でも、頑張っても不可能だった。現世での自分と重なってしまう。結局そこにいきついてしまう。
そんな田天を、マルクは横で心配そうに見ていた。
その夜、田天たちはまた同じ宿に泊まることにした。深夜、ぐっすり眠っているフレイラとは対称的に、なかなか寝付けない田天は窓から外の月を見ていた。
「寝れんのか?」
「マルクさん!?起きてたんですか?」
「もう呼び捨てでマルクでいいよ。
田天、技のことはあまり気にするな。」
「・・・。」
「サラも言っていたように、ルシフェル様の技は高度ゆえ難しいのだ。体は本物でも中身が違うとそりゃそうなるさ。
大事なのは、少しずつお前が成長することなんだよ。」
ベッドに腰かけるマルクの話を、田天は窓の縁に座りながら聞いていた。
「・・昨日のフレイラの試合を見て思ったんだ。俺もこんな勇敢に戦いたいって。難題に立ち向かいたいって。
でもやっぱり、恐れてしまう。今までずっとそうだった。」
「・・お前の世界ではそうだったかも知れんが、今は幸運なことにルシフェル様の体を使っているんだ。これを気に、恐れず行動する練習をしてみたらいい。一回うまくいったら、これからの自信につながるだろう。」
「・・そうだね。ありがとう、マルク。」
月明かりに照らされた田天の顔からは、少し曇りがなくなっていた。
ちょうどその時間、闘技場の隣に設置されているホテルの一室ではハーランドが眠っていた。しかし何者かの気配を感じ、ベッドから起きて窓の方に向かった。
(こんな時間に何者だ?凄まじい気配を感じるが、わざとか?)
窓を開けるとそこにはサラがいた。ここはホテルの9階であるため、サラは宙に浮いている状態で気配を放っていた。
「お前・・昨日の女悪魔の仲間だな?」
「覚えてくれていましたか。実はあなたに用があって来ました。」