光刃
「・・うーん、ん?」
先程まで広場にいたはずの田天だったが、気づくと町の外の荒野にいた。首の後ろが若干痛む。
「起きたか、田天よ。」
背後から声がし、田天が振り向くとマルクが腕を組んで立っていた。フレイラとサラの姿はない。
「あの・・どうしてこんなところに?」
「フレイラに頼んで気絶させたのだ。そしてここに運んでもらった。」
「・・なんのために?」
「田天!いまからお前にルシフェル様の技を教える!」
「!」
自分がここに連れてこられた訳を理解する。と同時に少し緊張する田天。ついに、ルシフェルの技を身に付けるときがきたのだ。
正直、彼には少し楽しみな気持ちもあった。今までの人生、テレビゲームでキャラクターの技を使うことは多々あった。それをとうとう、自分が使えるようになる時がきた。どんな感じで技が発動し、どんな効果が現れるのか。期待に胸を膨らませる。
「覚悟はいいか?」
「は、はい!」
「では教えよう。今からやってもらうのは゛光刃゛という技だ。」
「・・光刃?」
「ああ。その名の通り、光の刃を作りだし敵を切り裂く技だ。ルシフェル様がよく使われていた技で、ルシフェル様曰く、『俺の技のなかでも基本中の基本の技』らしい。
もちろん、それでも威力はとんでもない脅威の技だがな。」
「・・なるほどぉ。」
期待していた攻撃の技が使えるようになると分かり、テンションが少し上がる田天。
「え、でもマルクさんは使えるんですか?光刃。」
「俺は使えない。だが、俺にはこのメモ帳があるのだ。」
そう言うとマルクは、懐からターコイズブルーのメモ帳を得意気に取り出す。
「俺はルシフェル様の付き人。ルシフェル様の技に関する話も今までたくさん聞かせてもらっていた。そのたびにこのメモ帳に情報を書き残していたのだ。
つまり、これを使えばお前は着々とルシフェル様の技を使えるようになるというわけだ!」
「おお!凄い!
ん?じゃあ俺がそのメモ帳を見れば早いのでは?」
「・・いや、それはダメだよ。」
「なぜ?」
「それはほら、なんか違うじゃん。それやったら俺いらないじゃん。」
「まぁ・・たし、かに・・。」
「・・・」
変な空気が荒野にただよう。
「お、俺は誰よりも間近でルシフェル様の技を見てきた!だからそのメモ帳に書いてないような細かいことも指摘できるのだ!
さあ、つべこべ言わずに始めるぞ!」
「は、はい・・。」
そして特訓が始まった。田天はメモ帳にある゛光刃゛の情報を叩き込み、マルク指導のもとその練習を行った。
「まいどありー。」
「へっへー。良い服ゲットだ。」
田天の特訓中、フレイラとサラは町の服屋に寄っていた。フレイラは新たな服に着替え上機嫌だ。
「・・・。」
それを見るサラ。フレイラは黒のシャツにジーパンを履いている。シャツの背中にはドクロマークが描かれていた。
「さすが悪魔、そういうのを選ぶんですね。」
「へへ。お前も買えば?服。」
「私はいいです。この天界の制服が気に入っていますから。」
「ふーん。でもそれ来てると目立つよ。天界からの刺客が来たら、目印になっちゃいそうだけど。」
「たしかに・・考えてみたらそうですね。」
「私が選んでやるよ!ほら来い来い!」
「ちょ、自分で選びますから!」
とても悪魔と天使の会話とは思えない、ただの休日の女子のやり取りであった。