悪魔の本領
「ついに見られるぞ・・フレイラの本気が!」
マルクと田天はもうステージに釘付けになっていた。本来の目的はここでの仲間探しなのだが、そんなことは忘れて今はフレイラがハーランド相手にどこまで戦えるのかにしか興味がなかった。サラも腕を組み見守る。
「では、始めようか!」
今大会には司会者がいない。ステージ上で行われるすべてのことに関してハーランドに権利が与えられている。もちろん、試合開始の合図もだ。
「いくぞ・・!」
ヒュっとその場から消えるフレイラ。ハーランドは剣を持たず、ただ立ち尽くす。
「・・・」
静かに、ただ目をつぶりその場から動かない。
「おい、あの姉ちゃんはどこに消えたんだ?」
「に、逃げたのか?」
実際はフレイラは超スピードでステージ上を動いており、観客たちからはその動きは見えていない。もちろんハーランドはそんなことはなく。
「そこだぁ!」
その場で振り向き、ガシッと左腕でなにかをつかんだハーランド。その手にはフレイラの足がつかまれていた。
「さすがだね、私の蹴りに反応するだなんて。」
「まさか、これが本気じゃないよな?」
ハーランドは左手に力をこめる。握力でフレイラの足を握りつぶそうとする。
しかしその感触はすぐになくなった。つかんでいたはずのフレイラの体は黒い煙となり、その場で消滅した。
「・・魔術か。」
左手を見つめ影を魔術と見抜いたハーランドの背後に、フレイラが出現。
「正解だ。さーって、準備運動終了。本番始めるか!
ハァ!!!」
黒いオーラに包まれるフレイラ。そして会場中に衝撃波が伝わった。
「な、なにが起きてるんだ!」
「あんな黒いオーラ、始めてみたぞ!」
「あれが・・悪魔・・!!」
「お、俺は帰るぞ!こ、怖くなんてないんだからな!」
始めて悪魔を間近で見て、さらに禍禍しいオーラまで目にした観客たちのなかには会場から逃げ出すものがでてきた。普通の人間なら恐怖を感じてしまう、そんな気を今のフレイラはまとっているのだ。
「待たせたな、この姿を見ても余裕でいられるかな?」
オーラが消えた。そこに立っていたのは角や羽が不気味に変化しているフレイラだった。顔も全体的に紫色に変色しており、目から赤い稲妻のようなものを放っている。
服装も黒いオーラでできたさらしのようなものとショートパンツのようなものに変化しており、胸元や足を露出したかたちになっていた。
「私に色仕掛けは効かんぞ?」
「いつまでそうやってふざけていられるか・・な!!」
超速でハーランドに向かいフレイラ。その速さはガレオの比ではなく、ハーランドの目も見開く。
観客席のサラも弱冠口が開いたまま、その様子を見ていた。
(速い!あれが彼女の・・本領・・!)
「ふん!」
向かってくるフレイラを、また左手でつかもうとするハーランド。しかしつかむ寸前でまた煙となった。
「なに!?」
ハーランドが煙を手でつかんだ瞬間、フレイラは彼の右のこめかみに強烈な蹴りをくらわせた。
「ぐうっ・・!」
その場から吹き飛ぶもステージ中央あたりで踏みとどまるハーランド。その目にはニヤリと笑う悪魔の姿が映っていた。
「これは私が、悪魔軍で下克上をはたすために密かに習得した魔術゛クリーチャー・スタイル゛だ。体内の魔力を手足に密集させ爆発させ、驚異的な身体能力を得る技・・。
覚悟しろよ闘神、こうなったらなかなか手を抜けないからな。」