ルーキー対決
パッと距離を取り構えをとるサラ。
戦闘準備はできている、が、周りの一般市民が気になってしまう。
「で、できれば場所を移しませんか?ここでは関係のない人たちもまきこんでしまいます・・。」
「大丈夫ですよ。私サージマエルの能力を使えば問題ありません。」
そう言うとサージマエルはパチンと指を鳴らした。
するとサラとサージマエルのちょうど中間地点に黒い球体が出現。そのまま球体はその体積を急速に増して、二人を飲み込んだ。
「!?」
新米天使の中でもエリートと呼ばれていたサラも知らない技。
黒い球体は半径20メートルほどまで膨れ上がると、そこで膨張をやめた。
たしかな暗闇。しかしサラにははっきりとサージマエルの姿が見える。
逆に、それ以外の全てが目視できない。彼女の眼にはただ黒い世界が広がっているように見えているのだ。
「ここは私が作り出した亜空間。さきほどの場所とは全く別のところに私たちは立っています。
これで安心して戦えますよね?」
「ええ・・」
「私はあなたが天界から姿を消してからガブリエル様の部下として働き始めた者です。
知らないのも無理はないでしょう。
あなたの後輩ということになりますが、私はあなたと違い異例の速さで大天使の側近になった、いわば超エリート・・格で言うとあなたとは比べ物にならない・・。」
「・・そういうところでしか人を判断できないのならば、あなたは天使として欠陥していますね。」
物おじせず堂々とふるまうサラ。
自身の強さへの自信もあるが、これは田天たちとの旅で得た価値観の変化によるところが大きかった。
「裏切り者に言われたらおしまいですね。
では、さっさとかかってきてください。」
サージマエルは構えもとらず、腕を後ろに組んだまま立っている。
「守護術・第37番「怒りの銀矛」」
サラの詠唱により彼女の背後に魔法陣が出現。
ゴゴゴという音とともに矛の先が魔法陣の中心から顔を出した。
そしてそのまま、高速でサージマエルめがけて矛が飛んでいく。
空気を切り裂きながら突き進む矛の行き先には、不敵にほほ笑む天使の姿。
この「怒りの銀矛」という技、天使の間では人気の技と呼ばれている。
巨大な武器を高速で飛ばすというシンプルな技。ゆえにその対処法もさまざまある。
だから、この技を「撃破用」に使う術者はあまりいない。
人気の理由はこの技が「分析」に適しているからである。
相手が、向かい来る矛にどう対処するかでこれからの戦略を組み立てられる。
シンプルと言えどその速さと殺傷力はそれなりにあるため、それに対する対応を間違えると十分に死ぬ可能性はある。
これを「純粋に避けた」場合は格闘能力が、「術で防いだ」場合は反応速度が、「受け止めた」場合はフィジカルが優れている、といったふうに相手のステータスを図ったり、相手の癖を掴んだりいろいろな利点があるのだ。
「・・・」
サージマエルは何もしない、動かない。
気づけばその矛先は、彼の額まで到達していた。