闘神ハーランド
辛辣な顔で話すサラのとなりに、フレイラは黙って座った。
「まぁ、いいじゃん。私がいるんだし。」
「あなたは彼らの強さを知らないからそう言えるのです。ルシフェル様ほどではないにしろ、私を軽く凌駕する者が何名もいるのです・・
任務を放棄しあなたたちについていったなどと知られたら私はどうなるのか・・もちろんあなたたちもタダでは済まな・・」
「そっちこそ、私の実力知ってるのか?まだ本気を見せた覚えはないが。
それにこっちには、あのルシフェルがいるんだぞ?」
フフンと自慢げなフレイラをあきれた顔で見るサラ。
「いや・・本物じゃないじゃないですか。」
「そだな。だけど田天は、いつか本物に近い実力を必ず引き出せると思ってるよ、私は。」
「・・・」
静かに吹く夜の風で、フレイラの長い金髪とサラの銀髪がゆっくりとなびいていた。
朝。マルクが目を覚ますと、部屋の窓のところに立ち外を見ている田天が目に入った。日の光を浴びながら空を見る田天の後ろ姿が、マルクには神々しく思えた。
(ルシフェル・・様?)
「あ、マルクさん。おはようございます。」
「へ?あ、ああ。どうだ?調子のほうは。」
「すっかり回復しましたよ。」
「そうか。それは良かった。」
絶望の中この世界にやってきた田天。当初はこの状況をうまく受け入れられなかったが、仲間と呼べる者ができ、一夜休んだことで精神をとりあえず安定させることができた。もちろんその心の奥にはかなり大きな不安があるが。
外に出たマルクと田天。すぐ近くでフレイラとサラが待っていた。
「やっと起きたか、田天。」
「はは、とりあえずは復活・・ということで・・。」
「じゃあほら、これつけろ。」
フレイラは板のような物を田天に投げた。びびりながらキャッチして見てみると、それは仮面であった。どうやら犬の仮面のようだ。
「・・あの、これは?」
「見ての通り仮面です。ルシフェル様は最近ここらで暴れていたみたいですので、民の中にあなたの姿を見て襲ってくる者がいるかもしれません。
それを警戒して、顔を隠してもらいます。」
「なるほど。」
すぐに仮面を装着する田天。ルシフェルの姿で犬の仮面をつけた田天は、それはそれで浮きそうな雰囲気バリバリである。
「で、どうするんだ?フレイラよ。大会にはでるのか?」
「それが今日はラッキーデイみたいだよ。なんと今日は、この町一強いやつが名乗り出たやつ誰とでも戦ってくれるスペシャルルールの大会が開かれるみたいだ。」
「この町一強いやつ・・」
「そいつの名はハーランド。あまりの強さに゛闘神゛と呼ばれているらしい。
噂ではマスタードラゴン二匹相手に勝ったらしいぞ。」
「ほう、そりゃ凄い!」
「???」
感心するマルクの横で、田天は困惑する。聞きなれないワードがしれっと出てきたからだ。
「あの・・マスタードラゴンって、なに?」
「え?ああ、そっちの世界にはいないのか。
虎は分かるか?」
「虎は分かるよ。こっちにもいるからね。」
「なら話が早い。
いいか?まず虎100匹分の強さがあると言われてるマスタータイガーってのがいるんだ。見た目は虎に似ているが、体の色が紫で目が金に光っている。」
「ほ、ほう。なる・・ほど。」
改めて自分がファンタジーなところに立っていることを確認する田天であった。さらにフレイラの話は続く。
「そのマスタータイガー100匹分の強さがあると言われてるのが、ドラゴンだ。ドラゴンは分かるか?」
「ドラゴンは・・まぁなんとなく分かるかな。」
「そのドラゴン100匹分の強さがあるのがマスタードラゴンだ。
いまから戦う相手は、そのマスタードラゴンを二匹同時に狩ることに成功したやつだ。間違いなく本物の強者だろう。」
「・・・」
自分がいる世界の強さの指標が少し分かったと同時に、ハーランドという男が化け物クラスに強いことを理解できた田天は、声が出なかった。そして、まず今の自分が戦っていいような相手ではないということを、脳内にインプットさせた。