人を斬らない刀
「ラーミラ・・ラーミラ!もし天国で見ているなら出てきてくれ!」
強く願いながら、彼は亡くなった恋人の名を叫んだ。
彼は願った。
もう一度だけ、一度だけでいいからまた会いたい。
会って話がしたい、と。。
ピカッとミートボールが光った。
皆がその輝きに見とれているなか白い光は縦長に姿を変え、天に向かって長く長く伸びていく。
やがて光は雲を突き抜けその先が見えなくなる。
ジャキルは光のタワーを静かに見上げながら、だが胸の中はドキドキがおさまらない。
「ラーミラ・・ほんとに来てくれるかな・・?」
「ふふ、久しぶりねジャキル。」
「!!?」
顔を見下ろすと、ミートボールを置いていた場所に人影が見える。
白光のせいでその顔はよく見えないが、着物を着た女性がたしかに立っている。
そしてその声は、ジャキルがよく聞いていたものであった。
「ラーミラ・・。」
光がパァっと散らばりタワーが消滅すると、そこには人間の女性が立っている。
切れ長の目に黒い長髪、とてもきれいな女性。
ジャキルは恐る恐る近付く。
「ラーミラ・・マジでラーミラなのか・・?」
「ええ。ミートボールの光に乗って会いに来たわ。
もう死者だからすぐにまた天に帰らなきゃだけどね。」
目の前の現象に驚く一同。
ジャキルの反応からしてミートボールの力は本物。死者すら呼び出すとんでも能力に、天使も悪魔も人間も開いた口がふさがらない。
「ジャキル、ごめんなさい。
羅刹を手渡しできなくて・・。」
「お前はなにも気にすることはない。
大丈夫だ、お前が作った羅刹はこうして俺のもとに来た。
そしてスゲーんだぜ?こいつ、空間ごと切り裂くとんでもねぇ刀なんだ。
もう他の刀なんか使えないよ。お前のおかげだありがとう。」
「・・・・ジャキル、実は羅刹は本来そんな武器じゃないのよ。」
「え、どういうこと?」
「羅刹が私の作品のなかでも名刀である理由。それは他の刀とは大きく違うところがあるからなのよ。
そしてそれは「なんでも斬れる」じゃなくて、「何も斬れない」魔刀だということ。」
「えっと・・何を言ってるんだ?」
「当時、私は刀鍛冶として有名になってきて、たくさんの剣士が私の刀を求めてお店に通っていたわ。
はじめはそれが嬉しかった。。でもある日私の刀で殺された悪魔の無惨な死体を見たとき、私は殺人道具を作っていたことを改めて考えさせられたんだよね。
芸術や切れ味を追い求めていた私は、そこで興味が尽きてしまった・・だから作ることにしたの。
人を斬れない刀、私の最後の作品、『羅刹』を。」
彼女、ラーミラは自分の鍛冶の技術に加え己の魔力を注ぎ込むことで羅刹を作り上げた。
羅刹は彼女の思い描いたような刀に仕上がった。
人も物も、何を斬っても切断できない、刀としては『最低の』性能を持った最高の刀。
彼女はこれをジャキルに渡すことで、刀を『人を斬る道具』ではなく、『芸術的な魅力をもったもの』と考えを改めさせようとしたのだ。
羅刹に込められた想い。それは『平和』と『芸術』。
それをジャキルが怨念と怒りにより殺戮兵器へと変貌させてしまった。