妖刀~羅刹~
いまだ交戦中の戦士マガルタと悪魔剣士ジャキル。
先ほど斧をぶん投げてしまったため素手でジャキルと戦うマガルタだったが、いよいよ疲れが見え始める。
というのも、ジャキルの持つ恐ろしい特殊な能力に防戦を強いられてしまっているのだ。
「どうしたマガルタよ。
お前の格闘能力なら俺くらい一撃でしずめられるだろう?」
「そうしたいところだが・・そうもいきそうにない。
お前の刀のせいでな。」
「・・やはり初見で見抜いていたか。」
ジャキルが刀を目の前にかざす。
刀はボウッと紫色に光ると、まるで怨念が叫んでいるかのようなおぞましい音を立てはじめる。
ジャキルの不気味な笑みと相まって、マガルタの緊張がさらに加速した。
「お前がにらんでいる通り、この刀にはなかなか面白い力が宿っている。
この刀は「羅刹らせつ」っていってな、鍛冶職人だった俺の恋人が最後に作り上げた名刀だ。
彼女のいままでの作品の中でもこいつは改心の出来だったらしく、できるなり俺の家に届けに来ると言い出したんだ。
しかし彼女はなかなか来なかった。
不安に思って近所を探してたら案の定、彼女は刀に目をつけた悪魔たちに狙われてたわけよ。
俺が見つけたときにはすでに殺されててよ、、いやぁ悲しかったね。」
辛い過去を話しているわりに平然とした表情を崩さないジャキル。
すでに割り切っているのだろう、とマガルタは察し、彼の話を聞き続けた。
「悪魔の一人が刀に触れようとしたんだけどさ、気づいたら俺、そいつの顔面を蹴り上げてたんだ。
俺ってば生まれてこのかたぶちぎれたことなんかなかったんだが、このときばかりは鬼のように暴れてやったね。
彼女が残した羅刹を片手に、悪魔たちを一匹残らず惨殺してまわった。
その時だったね、羅刹に不思議な力が宿ったのは。
俺の恨み、怒り、悲しみ。そういう負のエネルギーがこいつに吸い取られて、俺が正気に戻ったときには羅刹は名刀から「妖刀」に変わっていた。。
斬ったものを「空間ごと」斬ってしまう魔の力を宿して・・。」
「やはりな。」
羅刹の能力はマガルタが恐れていた通りのものであった。
この刀は空間ごと斬ってしまう。つまりその対象がどんなに硬くても、どんなに強くても斬撃が当たりさえすれば確実に切断できてしまうのだ。
防御不可能な攻撃。しかもマガルタの察しどおりならば、羅刹が起こす「衝撃波」にもその能力は付与される。
それはすなわち、近距離遠距離ともに最高クラスの攻撃力を誇っていることを意味する。
「さて、種明かしをしてしまったわけだが・・マガルタよ、どうする?
攻撃手段が格闘しかないお前は、俺に近づかないといけない。
だがそれを実行するには俺の斬撃波をすべてかいくぐり、至近距離では刀のリーチをクリアして攻撃するしかない。
うーん。俺的には無理だと思うが、お前はどう思う?」
維持が悪い質問だが、彼の発言はもっともである。
だがマガルタは諦めなかった。彼も自分自身に絶対の自信があるからだ。
過酷な実験を得て手に入れた神の肉体。
それを信じてマガルタは悪魔に突撃する。