心の中での敗北
倒れた田天ににじり寄る子供天使。
不気味に光る瞳、そして光を指先に集めながらゆっくり、ゆっくりこちらに直進してくる。
「呆気なかったね。
でも仕方がないと思うよ。僕、天才で最強だし。
まぁ仮にもルシフェル様相手だから正直少し緊張したけど、やっぱり問題なく僕の勝ちか・・・」
真横にまで来た。田天を見下す彼の表情は天使とはかけ離れた、冷酷なものであった。
周囲の木々も静まり返る。なんの音も聞こえない。
「終わりだ。」
ラザエルの光る指先は田天の腹のほうへ向いている。
今にも放たれそうな、天使の皮を被った悪魔の一撃。
田天は体勢を整えようと全身に力を込めた。
瞬間、ラザエルの後方から勢いよく何かが飛んできた。
焦るラザエルは間一髪その何かをかわし、荒れた息づかいでそれを確かめる。
斧だ。しかも見覚えのある巨大な斧。
「さ、さすがに焦った・・・
マガルタだっけ?あいつの斧か。。」
ガンっと田天を蹴りあげるラザエル。ゴロゴロと転がる田天を見向きもせず、ラザエルは斧の飛んできた方向を見つめている。
異常な殺気を漂わせながら。
「決めた。殺す。
あっ殺したらダメなんだっけこのゲーム、なら半殺しだ。」
無表情で飛んでいくラザエルを田天は黙って見ているだけであった。
(ま、まさかルシフェルの力を使って負けるなんて・・いや、負けたわけじゃないけど・・)
この世界に来てルシフェルの力を得て、それを使えば難なく敵を倒せてきた。
それがたった今覆されたのだ。しかも同じ天使に。
(マガルタにも押され、ラザエルにも不覚をとった・・
俺は、俺はこのままでいいのか・・?)
困惑する田天。
そんな彼の脳内に、ある人物の言葉が届いた。
マルクだ。
「田天、なにも気にすることはない。
お前はまだルシフェル様の力の半分も引き出せていない。今の負けなどノーカウントだ。
見せてやれ、俺と頑張って身に付けた新たな技を!
そして解放しろ、今までの旅で培ってきた“お前“の強さを!」