新米フリーター・田天の堕天
「田天君さぁ、ここで働き始めてどのくらいになる?」
「い、一年くらいでしょうか・・ね・・。」
「普通さ、一年やったらレジはテキパキできるようになるし、商品の場所もだいたい把握できるようになってるもんだよ。」
「・・・。」
「さっきお客さんから苦情言われたよ。「あのレジの人の対応が悪いから指導して」ってね。君のことだよ田天君。」
「すみません・・。」
この怒られている人物が今作の主人公、田天。歳は二十二。
彼には高校を卒業してからずっとニート生活をしていた過去がある。
人づきあいが苦手なわけではない。
能力もそこそこあり、勉強も運動もトップクラスではないもののそれなりにできる。
ただ一つ、かなり深刻な欠点が彼には存在する。それは精神の弱さだ。ガラスのメンタルなんてもんじゃなく、プレパラートのような、とてももろいメンタルの持ち主。それが田天。
社会人になると自分の精神は確実に崩壊する。
そう判断した高校三年生のころの彼は生きていく気力を無くし、勉強も就職活動もせず結局ニートに逃げてしまった。
それが当時の彼の、最善の策であったのだ。
ニート生活が三年目にはいったころ、彼に新たな感情が芽生えた。「親に申し訳ない」という善の感情である。
田天は両親と姉、そして彼の四人で暮らしていたが彼以外の三名は皆働いていた。
そんな中タダ飯を喰らい生きていた田天の気持ちに変化が現れたのだ。
「働こうかな、そろそろ」
決心してから数日後、彼は家族に大切なことを三つ話した。一つはアルバイトを始めるということ。
一つは、一人暮らしをするということ。これは親への依存を葬り去るために彼の中では重要なことであった。
最後の一つは、「バイトを三年は続ける」という誓い。
もちろん両親は彼のメンタルのことは把握しておりどうするか迷ったが、彼の意志の強さ、そしていままで引きこもっていた彼の一世一代の決意に感動し、許可を出した。
こうして田天の、フリーター生活が始まったのである。
そしてそれから一年後、彼はこうして怒られている。店長も最初の方は彼のメンタルのことを考慮して怒らないでいたが、あまりにも仕事ができない彼に我慢に限界が来ていた。
しかし田天は単に物覚えが悪くてこうなったってしまったのではない。
彼の精神力がこうさせたのである。彼は何事においても失敗を恐れる。
その恐れがパフォーマンスを低下させている原因となっている。彼は常に、100使える能力の30しか使えないのだ。
そういうことで彼は周りから「無能」の烙印を押されている。
「おつかれさまでした・・」
仕事を終え店を出る田天。
この日はまっすぐ家には向かわず、近くのスーパーでアイスを買い、近所の公園へ入った。
時間は午後23時、夜の公園には田天以外の人影はなかった。
「・・まーた怒られましたか。もう最近は毎日だよ。」
愚痴をこぼしながらベンチでアイスを食べる。そんな田天のもとに猫がやってきた。
猫をなでながら田天はさらに愚痴をこぼす。
「俺はどうすればいいんだ。また明日からも「怒られに」行かなきゃならないのか?
自分が悪いのはわかっているんだ。でもどうしようもないんだ、必ず失敗していまうんですよ。どうしようもないんですよ。
高三の俺の判断はやっぱり正しかったんだな。俺はやっぱり、社会人には向かない。。
三年は続けるって約束したバイトだけど、一年でこのざまか。たぶん三年後は骨になってるよ。はは。。。」
ベンチから立ち上がる田天。猫はさっそうと去っていった。
「さて、どうするかねぇ・・・。」
食べ終わったアイスの棒を見ると、はずれの文字が明りに照らされてる。
「・・・・。」