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叫ぶように。心底馬鹿にしたように言った。大声で。

「私はその双冠ツイン・クラウン制度を無くしたいんですよ。所詮戦いなんて個人戦。この学園を出たらそれは敵でしかなくなるんですよ?今までの友人も、先生も、全て、全て敵でしかない。そんな制度無駄でしか無いじゃないですか!!」

白亜の敷地内に、少女の叫びが響きわたった。

「なのに、なんでそんな甘い制度なんかをつくるんですか!!?」

「……そっか……君はそんな考えか」

雪菜が冷めた声で言った。

「……っ!!」

「君は闇に墜ちたの?」

少女の血の気が引いた。顔が青白くなり始める。

「そうなんだ……君闇じゃないのにね」

そして心なしか身体が震え始めている少女に無表情で冷たく言い放った。

「何も知らないのに変えたくなる子はいっぱいいる。見てきたから。でも、知らないのにそんなこと言って良いの?」

冷たい目で見たまま、雪菜は問いかける。

「そんなのが奏清汐に入りたい、理由?」

その雪菜に少女は、絞り出すように言った。

「わ、悪いです…か…?」

そして訪ねる。

「せ、先輩達は……なんで奏清汐に?」

そんな理由で、と言うのならそれなりの理由があると思った。だから、訪ねた。あなたは目的があったのかと。

その問に対して雪菜は軽く首を傾げると、不思議そうに彗を見上げ何も反応がないのに呆れたようにして溜め息を小さくつくと、少女を見て答えた。

「…それは君に…関係あるの?」

ぞっとするような、低く場を凍らせるような声で言った。

「もし本当に双冠ツイン・クラウンを壊すなら……壊す気なら……」

雪菜は口角を上げて。ある意味、妖艶な笑みで。

「死ぬよ?」

何処か嬉しそうに言った。

「なんなら今死ぬ?」

「ひっ!!」

その言葉で少女の背中に一瞬にして嫌な汗が浮くほどの、悪寒が駆け上がる。

そして思った。目の前にいるのは自分が話しかける前、隣に立つ少年に笑いかけていた少女かと。

はたまた二重人格なのではないかと。

そんな現実逃避の考えが頭を巡る。

「そ、そんな…けんり、あなたに、は、ない」

震える声で言い切った。

その瞬間雪菜は小さくため息をつく。

そして、

「やればわかるよ」

ぽつりと呟くように雪菜が言ったその時、少女が見たのは嬉しそうにまさに妖艶に笑った雪菜の顔だった。

雪菜はスカートのポケットから黒い柄のカッターを引きずり出すと、ギチギチと不気味な音をたててめいいっぱい刃を出した。

「……!!」

少女は息を呑む。

目の前に居る雪菜は本気なんだと。

そして雪菜はカッターを持った手を少女へ真っ直ぐ向けた。

鋭い先を少女に向けて。

自分の肌に滑らせたくなるのを、必死に我慢して。

震えることのない動くことのないカッターの先端。それが、雪菜の行動に一切の迷いがないことを証明する。

「やめる?」

雪菜が聞いた。首を傾げて。

「止めようか?」

「や、めない…」

少女が震えながらそう答えた瞬間ぽつりと

「そう…残念」

呟き落とした後カッターを構え少女の方へ走り出した。

圧倒的に狂ってる異常者へ対する恐怖と絶望が、背筋を駆け上がった。

眼に涙が溜まり始める。

やるしかない、少女がそう思ったその時───

「……って、お前何してんの!!」

驚いた少年の声が響いた。

「!」

驚いて声がした方を向く。

雪菜もその声を聞いて動きを止め、後ろに跳びづさった。

見ると雪菜の背後に立ってる、ツイン・クラウンの少年。

どうやら水蓮藤の首席…彗が雪菜を制止したようだった。

何で?混乱する少女。

「お前何やってんだよ!!」

「余興?」

叱るように言う彗の声と軽く言う雪菜の声。

そんな急に異常な空間から切り離された少女は、瞬時に今すべき事の答えを見つけだすと、

「じゃあ、十五分後!!」

叫ぶように言った後即座に身を翻し、その場から駆け出した。

震える足を必死に動かして。

その場から逃げた。広く見晴らしのいい場所は姿を隠せる場所など無く、左右に咲いている木々の隙間に身体を滑り込ませるようにして入っていった。

その姿を見ていた雪菜はカッターの刃をギチギチと鳴らしながら言う。

「棄権してくれなかった…」

「自分から提案したことだろ?」

咎めるように彗は言う。

「だいたいお前余興とか言ってたけど半分ぐらいは本気だったろ?」

彗が雪菜を止めにはいるのに時間がかかったのは無視していたとかではなく、単純に口を挟む隙を与えられなかったのと、雪菜が無意識に出した次元止めのせいだ。

彗も止めたなら少女を泣かせる前、雪菜が無表情になるまえにしたかったのだが雪菜が当事者以外を蚊帳の外に出し、口を挟む隙を与えない雰囲気を作り出したため声をかけることが出来なかった。

それに周りの時間を少し遅く、自分達の時間を少し早く動かす術を無意識に使ったために彗友が気づき話し掛けれる状況になっていた時は、雪菜はもう少女に飛びかかろうと走り出していた頃だった。

間に合うか間に合わないかの所でぎりぎりで声をかけ、結果的には間に合った。

雪菜程の力ならカッターの刃を寸止めをしていたであろうが、声を掛けておくべきではあっただろう。

真剣な顔で言う彗に対し雪菜ははぐらかすように、笑う。

「さあね」

事実本人もいまいち分かっていないのだから。

その後付け足すように雪菜は言った。

「面倒なことにならないと言いけどなあ…」

その面倒になったことを想像しながら言った雪菜。上級生の噂は思いのほか広まりやすい。

特に奏清汐がしたことならなおさらだろう。

普通とは扱いが違うのだ。それはその中に、その噂の真偽で奏清汐の枠を空けようと考える者がいるからである。

雪菜は奏清汐の一員なので噂がたてば広がるのは早いだろう。

そうなったらそうなったで、真偽を確かめにくる者など平和には学園生活が暫くはおえなくなるだろう。

まるでやらかしてしまった、芸能人がパパラッチに追われるように。

「んなこと思うならやるなよな…」

「仕方ないじゃん。」

雪菜は声を低くして言う。

「あれはあの子の自業自得。」

その言葉に彗は何も言えなかった。

雪菜がそんな事を言うのも分からなくはない。

織らないからこそ、あの少女はあんな言葉を言えたのであろう。

そしてきっとあの少女は奏清汐になることはない、彗はそう思った。

簡単な話だ。双冠ツイン・クラウンが嫌ならば、奏清汐に入らなければ良いだけなのだから。

例え実力があったとしてもその力は発揮される前に終わるだろう。

いつにも増して気合いが入った炎の使い手によって。

「そろそろ報告しないと…」

雪菜はぽつりと言って目を閉じた。

小さく口を動かし言葉を紡ぐ。

そして右手を突き出し人差し指と中指で十字をきると、彗へふり目を開ける。

振られた彗は十字を人差し指と中指で受け取ると、雪菜の言葉にかぶせるように同じ言葉を紡ぎ出す。

完全に音が合わさると雪菜はそれを言うのを止め、代わりに別の言葉を言った。

みんなに伝えようとしている内容を。

その間も彗は言葉をひたすらに紡ぐ。

「十五分後にエキシビジョンが始まる。さあ、みんなでステージに集まろう!」

そう弾んだ声で雪菜は言うと、彗の指に合わせるように鏡になるように人差し指と中指を伸ばす。

とその間に光が生まれる。

白から黄色になり白になった光が、人の眼球と同じくらいの大きさになると彗と雪菜はそれを空に放った。

言葉が詰め込まれた光【魂言こんげん】はある程度の高さまで行くとはじけて三つに分かれてそれぞれ別の場所に墜ちていった。

彗と雪菜は同時に眼を開けると、腕を下ろす。

そこで雪菜は不思議そうに声を出した。

「…そう言えばあの子なんで止めなかったんだろう?」

その言葉に彗は不思議に聞く。

「何が?」

「いやあの子にね、「やめる?」って聞いたんだよ。怖がってるときに。そしたら彼女」

一拍置いて言った。

「震えながら「やめない」って答えたんだ。どうしてあそこまで執着したんだろう?」

彗を見る雪菜。それは彗にも分からない。だが、それは余程の事情がある気がした。

「とりあえずお前はエキシビジョンの事でも考えてろ」

「分かったよ…」

しぶしぶ答えた雪菜。

そして彗の腕を掴むと中立のステージステージに向かって走り出した。

春のほのかに涼しい風が二人を包み込んだ。

     


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