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「僕?君と同じ水蓮藤のき…矢咏じゃなくて?」

普段雪菜は彗を"きんぴら"と呼ぶのだが、一年生には伝わらないと思ったのか言い方を変えて言った。

驚いたように。予想外だったように。

雪菜と彗の目の前にいるのは、黒をベースとした青や水色をあしらったブレザーを着て"聖なる清めの礼節"のエンブレムを付けた少女は、どう考えても彗の所属している、或いはしていた水蓮藤の生徒でしかない。

たとえ、彗が指名されても断っていたとは思うのだが…。

正直なとこと、穏便にすませたいのだ。けして、無駄な戦いはしたくない。

だが、今回あくまで指名されてるのは雪菜だ。

同じ水蓮藤の彗ではなく、違う火焔懺の雪菜に。

確かに今日は別のクラスに戦いを挑んでも、上級生や同級生に攻撃をしかけてもなんら構わないのだが、まさか水蓮藤の一年生が別のクラスである火焔懺の上級生、しかも奏清汐のメンバーに戦いを挑むとは彗思ってもいなかった。

「先輩が一年生の頃は上級生に勝っていたんですよね?それなら、私も先輩と戦ってみたいなって思ったんです。ダメですか?」

「本当に奏清汐に入りたいんなら僕じゃなく、同じ水蓮藤の上級生に頼むべきじゃない?」

不安げに話す少女に対して、雪菜は冷たく言い放った。

どこか皮肉を混ぜて。

だがその皮肉に気づいていないのか、はたまた気にしていないのか少女は微笑んで言った。

「先輩がいいんです。」

「………僕と戦いたい?」

「はい!」

戸惑いながら聞いた雪菜の質問に、少女は即答で元気よく答えた。

その威勢の良い声に、迷うことなく答えられた返事に雪菜は「うっ」と声をもらす。

彗の顔を見上げて小さく口を動かした。

「僕戦いたくないんだけど…」と。

読唇術を心得てる彗は、雪菜が何を言ってるかすぐに分かった。

彗が理解すると同時に、雪菜は少女の方を真っ直ぐ見ると

「僕達急いでるんだよね」

と言った。

それは遠まわしに戦いはしない、と拒否しているのだが、やはりそれに気づいていないのか、はたまた気にしていないのか少女は笑うと

「大丈夫です。時間はかけませんので」

はっきりとそう言った。

雪菜の纏う空気が少し暑くなる。普通なら冷えるところが、雪菜の扱う炎が制御されなくなり始める。

沸き上がる魔力が荒れ狂う何歩か手前。雪菜の無意識な魔法。

「それはつまり、君が負けると?」

「いえ」

少女は優しく微笑む。

そして空気が雪菜と少女を取り巻く空気が一気に重くなった。上級生が下級生に生意気なことを言われたのだ。

しかも、相手は雪菜。

売られた喧嘩をほぼ全て買っていく。

これはもう、戦いが始まる雰囲気でしかなかった。

「あのさ……」

「何?」

恐る恐る話しかけた彗に対し、雪菜は振り返った。

「エキシビジョンでやったら?」

「エキシビジョン?あ~、でもそれって長引くじゃん。」

彗の提案に露骨に嫌そうな顔をする雪菜。

そこで彗は、雪菜が断らないであろう言葉を口にした。

「でも逆に"長く遊べるよ"?」

エキシビジョンとは、奏清汐全員が一年生との戦いをショーにもしてやるもの。

本気で戦いに挑んでくる一年生に対して、それそうおうな実力でかえす戦いだ。

盛り上げて、盛り上げて最後はやはり奏清汐が勝つというパターンが多いのだが、それはあくまで実力なため、エキシビジョンで負けた上級生も中にはいる。

ただ彗には少女が雪菜に瞬殺されて、仮死状態になることしか思い浮かばなかった。

それは少女に対して失礼なのだが、どうも目の前にいる少女に雪菜を倒せるほどの魔力があるようには感じられなかった。

彗からしたら雪菜と戦いたいと言う少女の希望と、戦いたくはないがエキシビジョンは必ずしなければならないという雪菜の課題の為に提案したことだ。

そしてエキシビジョンの開催されるステージには結界が張ってあるため、いくら暴れても能力の被害が出ない。

それに、もう一つ理由がある。

雪菜がやりたいことができるのだ。

「エキシビジョンをやったら"みんな"集まるよ?」

最初はきょとんとしていた雪菜も次第に意味が分かったのか、ぴょんぴょんとその場を跳ぶ。

「ほんと?ほんとに?」

「南雲がエキシビジョン始めたらみんなも必然的に集まるんじゃない?だって、奏清汐はエキシビジョンをする決まりだし」

つまり、誰かがエキシビジョンを始めるためにステージに立ち準備を始めたら、必然的に同じくエキシビジョンをやらなければならない奏清汐のメンバーは、ステージに集まって待機している必要があるのだ。

故に一年生に捕まっていても強制的に集まることができる、今日だけそれが一番早く集まれる方法だった。

雪菜のポニーテールと黒いリボンが気持ちを表すように、弾む。

雪菜はくるっと少女の方を見ると

「いいよ、エキシビジョンでいいのなら」

そう聞いた。

少女の顔が一番嬉しそうに言った。

「はい!!」

その瞳がキラキラと楽しみで仕方がないとでも言うように、輝く。

この時点で雪菜は後には引けない。

エキシビジョンを行うさいに言う"知詠唱"を口にはしていないのだが、一度受けてしまったものを断るのは良いことではない。

仕方なく雪菜はエキシビジョンのルールを思い出す。

興味が無かったために完璧には記憶してないのだ。それでも、必修として一通りは読んだはずだと考えながら口にする。

「エキシビジョンのルールは、幾つかあるけど基本的にはステージで決めるからなし。今決めるのは、何対何かな。一対二、二対一、二対二、一対一の四種類で、上級生二人のの二対一は禁止とする。」

目線を最後彗にうつした雪菜は聞いた。

「であってるよね?」

「…あってる。スゴイ」

明らかに驚いて言う彗。まさか興味ないことを覚えてるとは思わなかった。

雪菜はそんな彗にニコリと微笑むと

「馬鹿にするな!!」

そんな高い声を出し彗の腹にパンチを食らわせた。

くの字に体をおる彗。

胃液が喉を駆け上り、苦いような酸っぱいような何ともいえない感覚を残してひいた。

何事も無かったかののように雪菜は少女を見ると、初めて向けたであろう笑顔でどれが良いかを聞いた。

戸惑いなかなか答えられない少女の答えを待ちながら雪菜は振り返ると、心なしか顔が青くなっている彗に聞く。

「大丈夫?」

「大丈夫ー」

大丈夫だと言っているので大丈夫だと思い雪菜は自分の足元に視線を落とす。

「あの…」

ふと少女から声がかかり雪菜は顔を上げた。

「決まった?」

「本来エキシビジョンはどうするんですか?」

「バラバラだけど、一対一、二対二が多いかな…」

自分の実力を見せつけ、奏清汐のメンバーになることを夢見ている一年生が、一対二などというフェアじゃない戦い方を選ぶことは少ない。

二対二や一対一などという人数がそろってるものを選ぶ事が多かった。

暫く考えた少女は口を開く。

「…一対一で」

雪菜は身体を左右に揺らす。

その動きにあわせて、ポニーテールが揺れる。

「んにゃ、分かったよ」

雪菜は左手首についている腕時計を見て少し考えた後、はっきりと少女の目を見て答えた。

「なら開始は…一五分後でどお?」

「はい!」

少女の元気な声と、嬉しそうな笑顔を彗は少し複雑そうな顔をして見ていた。

少し少女の答えに疑問を持ったから。

そこで今まで黙ってみていた、正確に言うと黙ってみてるしかなかった彗は口を開いた。

「どうして二対二にしなかったの?奏清汐になりたいのに」

「え?」

少女の口から驚いた声が出る。

彗の言葉の意味を素早くくみ取った雪菜は、すかさず言った。

「ほんとだ。僕達奏清汐はよほどのことがないかぎり、〈双冠ツイン・クラウン〉つまりバディを組まされる。例え他のクラスでもね。だから、もし奏清汐になりたいのならコンビネーションの技が出来ることをアピールするべき。僕の場合だと〈双冠ツイン・クラウン〉は矢咏。相反する属性だけど、コンビネーションはあるよ?」

雪菜は彗の腕を軽く叩いた。本当は肩を叩きたかったのだが身長差があるため肩をたたけなかったのだ。

"〈双冠ツイン・クラウン〉"とは、奏清汐に与えられたある種の特権の一つだ。

奏清汐に入ると必ずバディを組まされ二人で一人だと計算される。何をするにもよほどのことがない限り、この二人は行動を共にするのだ。それは戦闘の時もそうで、二人でコンビネーションを考えながら攻撃すると言うもの。

息が合わなければ死ぬのだが、〈双冠ツイン・クラウン〉になるには誓い契約をする必要があり、その印として対となるアクセサリーを身に付ける必要があるため、仲の悪い奴となることは消してない。

雪菜と彗は誓いの契約をし、証としてピアスを左右対象で付けていた。

彗は叩かれた腕にをかばうように触ると呆れたように言う。

「そのせいで何度か死にかけたけどな、俺」

「知らなーい。そうなったら、一緒に死んであげるって」

「縁起でもないこと言うじゃない」

カッターなどの刃物で自分の腕を切り裂き血を流す事をよくやる雪菜は、その"死ぬ"という言葉に重みは有るようで無く代わりにものすごく信憑性があった。

そしてそんな雪菜と彗の会話を聞きながら少女は俯きながら口開く。ぽつりと。

「…ツイン…クラウン…」

「だから本気で奏清汐になりたい子は二対二を希望するから。意外って…あくまで個人的な意見な?」

少女は顔を上げて彗を見る。先程とはまた別の意志のある強い眼で。

そして雪菜と彗に向けて言った。

「〈双冠ツイン・クラウン〉?バッカみたい!!」

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