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体育館の中スクリーンに映る映像と、声。
集まった新入生達はそれを真剣に見ている。
『重力が無い、無重力の世界には"創世神"が愛し生み出した103個の異世界が存在しているという。そのうち、生物が住んでいるとされているのは自分達が住んでいる世界だけ。
それは、異世界同士の距離はあまりにも遠く自力でたどり着くことは何を駆使しても不可能だった為に他の世界がどのようになっているか分からないからだ。
故に、住民はその異世界をただの星と変わらず眺めるか、その星が別の世界だと知ってはいるがその世界にたどり着くほどの技術が発展しておらず、技術に磨きをかけようとするか、或いはその異世界の存在さえ知らないかの三種類がいた。
103個の異世界の内、4番目の称号を持つ"レティア"世界。その世界は、魔法と呼ばれる特殊な力を"創世神"授かった人達がいた。魔法と言う技術を持った人々はその力で文明を発展させた。それは魔法が使えないものが存在しないくらいに。
全ての人が魔法を持ったためなんら珍しいものではなくなったのだが、その力を戦力として使うものが出てきた。だが、相手が魔法を使えば自分達も魔法を…とやっていたため、戦争などでは魔法は必須となっていた。だが、相手の上になると言うことは技術をやはり磨かなくてはならない。
だが、独学では限界がある。それに、そんなつまらない世界を一生子供に背負わせる気かと。
そこで、創世神は一つの巨大な学園を作り出した。
魔法で生み出された学校は、幾つかのクラスに分かれておりそれぞれが得意とする魔術を強化できるカリキュラムにし、学園に笑顔が溢れ戦いが終わる事を願った。
そうして作られた魔法学園…ここ、犀嵐魔導学園だ。』
そこで映像は切れ、体育館に明かりがつき明るくなる。
そして、声がマイクに切り切り替わった。
『と、ここで創世神が造ったとされているクラスを紹介します。では、最優秀生徒"奏清汐"(そうせいせき)にお願いしましょう』
パチンと指を鳴らす音がしたかと思うと、一度はついた明かりが一気にすべて落ちた。
ザワザワしだす新入生達。
と、それを黙らせるかのようにスクリーンに映し出される赤き炎のエンブレム。
『華麗なる遊戯の意志 』スポットライトが当たるステージに次々にそびえ立つ太い炎で出来た柱。火の粉が飛び散る灼熱の空間の中央に立つ少女。
赤いラインが入った白いブレザー制服を着た、長い髪を黒いリボンでポニーテールに縛った少女は口を開いた。
「火焔懺♪」
途端に炎の柱が弾け飛んだ。火の玉が飛び散り空で消える。
沸き起こる歓声。
少女が天井を指差す。
スクリーンは、赤き炎のエンブレムから青い水のエンブレムに変わる。
『聖なる清めの礼節 』
新入生の上に生まれた大きな水の玉。それは次第に凍っていき、氷の結晶が反対側に生まれる。
ステージに立つ、青いラインの入った白いブレザー制服を着た、身長の高い少年とズボンを履いた肩口までの髪をおろした少女は同時に口を開く。
「「水蓮藤」」
少年が指を動かすと氷の結晶は、凍った水の塊に突き刺さり弾け細かな雪の結晶が降り注いだ。
やはり沸き起こる歓声。
二人は体育館の窓を指差す。
スクリーンは、青い水のエンブレムから黄色の雷のエンブレムへ変わる。
『轟く雷の魂 』
晴れていて雲一つ無かった空に、灰色の雲が広がり始める。
ステージに立った黄色のラインが入った白いブレザー制服を着たメガネをかけた少年とメガネのかけていない少年。
「「雷導殿」」
二人がそう言うと、大きな音を立てて外に雷が落ちた。
小さな悲鳴がおきる。
と、体育館内に柔らかな風が通る。
スクリーンのエンブレムは、黄色の雷からライム色蔓や花のエンブレムに変わっていた。
『秘めたる安らぎの民』
ライム色のラインが入った白いブレザー制服を着た黒い髪を左側で一本に縛った少女、肩口よりもほんの少し短い髪をハーフアッブに縛った少女、メガネをかけた少年は悪戯に笑って口を開く。
「「「緑風鈴」」」
途端に強い風が吹きどこからか現れた桜の花びらが風にまいながら羽ばたいた。
一番だと思われる歓声が体育館に響く。
緑風鈴の紹介をした、黒い髪を左側にまとめて縛った少女はマイクを持ち口を開いた。
「以上クラス紹介でした。演出は、それぞれのクラスから上がった二年、奏清汐のメンバーでした。」
その声を合図として、計8人のステージに立っていた少年少女は礼をした。
新入生、先生方は賞賛の拍手をおくった。
ステージを照らしていた光が消え変わりに体育館の明かりがつく。
ステージには、奏清汐のメンバーはもう居なかった。まるで最初から居なかったかのように足音ひとつ出さずその姿を消した。
『皆さんも奏清汐を目指して勉学に励んでください。また、「双冠」の説明については生徒手帳に載っています。各自それぞれ、火焔懺、水蓮藤、雷導殿、緑風鈴の校舎に戻ってから見てください。』
体育館の中に、鐘の音が鳴り響く。
声の主は在校生に立つように指示すると、礼をさせイスに座らせた。
そして新入生にとって待ちに待っていたであろう言葉を言った。
『これで、入学式を終わります。』
それはチャイムが鳴るまでけして在校生とみなされないと言われている犀嵐魔導学園の新入生が正式に在校生の一部となった瞬間だった。
嬉しそうな安心したような表情をした、一年生を体育館の出入り口付近で見ていた少女は口を開く。
「あーあ、これから面倒だな…」
「そんなこと言うなよ…」
それに対して窘めるように言う少年。
それを聞いていた別の少女はつまらなさそうに言う。
「でも、一年生が追いかけ回してくるのは面倒以外ないじゃん」
「むしろ、わたし達が一年生の時興味なさすぎだったのかも…」
一年前のことを思い出しながら言った少女の言葉に別の少年は付け足す。
「あんなに人が集まってるのによく行く気になるよな…」
「私は正直どうでもよかったし…」
また別の少年は退場指示を聞いている新一年生を見ながらみんなに問いた。
「てか、行かないの?」
ぎょっとする少年。
「あ、お前いたんだ…。」
「居たけど…」
「面倒になる前に行こっか」
ひとりの少女の声を合図に八人の少女少年はその場を後にした。