第一章:Marriage meeting 08
実習が始まっても午前中は学院で授業がある。
色々と考え事をしていて寝不足だった私は
ずっとぼーとしていたと思う。
けれどいつもはすぐに注意をしてくる
シスターセッチは何も言ってこなかった。
実習先が決まったからかな?
「では、今日の授業はここまでです。
みなさん、午後からも実習先で励みなさい」
なんだか昨日見た時よりもっと疲れた感じで、
何か物言いたげな顔で私をちらっと見たけれど、
シスターセッチは結局何も私に言わず、
足早に教室から出て行った。
「んー…終わった~」
眠気を覚ますように体を伸ばす。
「ミミ!」
「わっ」
突然後ろから肩を叩かれて私は飛び跳ねる。
椅子に座る私の前に回り込んできたのは
「昨日見ちゃったんだよ!
ねね、ねえ!
ミミ、マイナ様と一緒にいなかった!?」
ヒナ鳥が親に餌を求める姿よりも忙しない、
そんな私のクラスメイトが
息継ぎなしで話しかけてくる。
「マ、マリー……驚かせないでよ~」
「ごめんごめんね!
で、どうなの、真相は!?」
マリーはもう見ての通り、
元気の塊のような子。
少しそばかすがある愛嬌のある顔に、
いつも忙しそうに揺れるポニーテール。
かしましい、というのは
マリーのためにある言葉だと思う。
けどそれを煩わしいと思う人はおらず、
明るい彼女はクラスで一番の人気者だった。
行動力が勿論凄いというのもあるけれど、
なんとマリーは実技・学問共に優秀で学年主席。
「こら、マリー。
落ち着けって。ミミも驚いてるだろ」
今にも走って私の周りをぐるぐるしそうだったマリーの
首根っこを掴んだりはカレン。
みんなが羨む艶やかなストレートロングの髪に、
いつでも冷静でクールな表情。
実技、その中でも剣技に優れており、
特に後輩たちから人望の厚い「お姉様」。
本人はその呼ばれ方が嫌らしいけれど。
「えっと……ごめんね、ミミ。
昨日、私が偶然見かけてそれをマリーに言ったから」
おずおずと後ろから顔を出したのは
大人しいおさげの子。
優しいし穏やかな彼女の声は
いつ聞いても落ち着くから私は大好きだ。
困った時はいつでも相談に乗ってくれる、
なんだか私にとってはお母さんみたいな存在。
ナターシャ、それが私たち
仲良し4人組の癒し系の名前。
想像し辛いけれど、彼女は計算が得意……
特に商売的な損得勘定を考えるのが趣味なんだって。
そんな学園で一目置かれている彼女たちに比べて、
私には料理くらいしか取り柄がないのだけれども。
でも今日だけは私が話題の中心になっていた。
「うん、マイナ様と一緒にね、
クリアレーゲルにも乗ったんだよ」
「ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
マリーは大げさなくらいに叫ぶ。
けれどナターシャもカレンも
大声をあげたりはしないけれど驚いていた。
みんなを驚かせることなんて今までなかったから
なんだか何もしていないのに頑張った気分。
「ミミ……凄いね。
中はどうなっていたの?」
「前にね、ナターシャがほら、
想像していた感じそのものだったよ。
イラストに描いてくれたみたいな」
「本当なのか。
それは何だか逆に肩身が狭そうだな」
やっぱりみんなも気になるのか話に食いついてくる。
内装のこととか、マイナ様のこととか、
私は得意気にみんなに語る。
マリーなんて凄い勢いで
一番多く私に質問をしていた。
でも、実習先に関しては
まだどうなるかわからないことも多いから
今はみんなには黙っている。
「あ、そうだマリーに教えてほしいことがあるんだけど」
「ほいほい、なになに、
物知りマリーさんがなんでも答えちゃう」
「男の人に料理を作りたいんだけど、
今だと何が喜んでもらえるかなぁ」
「……」
意気揚々と答えようとしていたマリーが固まる。
カレンに視線を向けると首を振った。
「この季節だと
ビックボアの狩猟が解禁されてるから、
市場にも新鮮なお肉も多いかも。
あんまりクセもないし
ハンバーグとかにすると美味しいかな」
そんな二人とは違い、
ナターシャはすらすらと教えてくれる。
「なっナターシャ!?
ま、まさか彼氏とか……」
マリーがあわあわと食って掛かるけれど、
ナターシャは笑いながら
「弟がいるから」と答えていた。
「ミミは誰に作ってあげるんだ?」
カレンが訪ねてくるけれど、
私は指を唇に当てて「内緒」と笑った。
その様子にマリーが目を見開いていた。
私は決めたんだ。
できることをしていこうと。