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黒のヴァージンロード  作者: テオ
第一章『Marriage meeting』
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第一章:Marriage meeting 07

「――灯りよ」


ガロが一言告げると、

周囲に鬼火が二つ出てきて暗い道を照らしてくれた。

ランタンを持っていない私にはとても助かる。


「ごめんなさいね、

 歩いて行こうなんて言い出してしまって」


ガロが謝るけれど、

私も話したいと思っていたからちょうど良かった。

暗い道を大通り目指してゆっくりと歩いて行く。


「――ミミは魔族が怖いですか?」


覗き込むようにして、

わざと禍々しい悪魔の顔を作りながら聞いてくる。

一瞬、心臓が止まりそうになった。

暗がりから突然出てきたら間違いなく卒倒する。

私もガロのことを知らなければ悲鳴を上げていた。

だけれど私はすぐに呼吸を整えて……


「……わからない」


正直にそう答えた。


「あなたたちのことを全然知らないし、

 人間だからといって

 みんなが優しいわけでもないから……」


魔族とサータ王国の戦争のことを

よく知らない私には、

判断したくても材料がない。

むしろ私にとって、

家と家族を奪ったのは私と同じ人間だった。


「そう……もう時代は変わったのですね」


元の鳥の姿に戻り、

私の肩に乗って石の羽の毛づくろいを始める。


「ミミがどうして主様のとこに

 実習に来たか知りたいかしら?」


唐突に言い出したその言葉に、私は頷いた。


「貴方とは違い、

 人間にとって魔族というのはやはり怖いのですよ。

 特に主様は強大な力を持つヴァンパイア」


「どれくらい強いの?」


「どれほどの力か……

 それを人間たちは誰一人として知らないのですよ。

 そう、想像もできないほど主様の魔力は大きい」


周囲の鬼火がゆらゆら揺れるのを目で追う。


「人間は未知なモノほど怖いのです。

 だから見張っていたいけれど……

 けれど誰も怖がって行けない。

 だってヴァンパイアはそれこそ、

 魔族の中ですら恐れられている存在なのですから」


静かな夜の街に、私の足音だけが響く。


「今まではマイナ様がフレデさんを見てたんだ」


「それも定期的に顔を出す程度です。

 でも三英雄では何かあった時にまずいのですから」


私は首を傾げた。


「マズい?」


「そう、そもそもヴァンパイアを

 倒すことなんて誰にもできないのです。

 魔族の中でも一番偉い魔王様であっても……

 そして勿論それは『三英雄』と呼ばれる存在も含めて、です」


それはマイナ様の態度を見ていると、

何となくわかる気がした。

だってフレデさんの様子をずっと伺っていて、

マイナ様の方が立場が弱いんだなって感じたから。


「そっか……

 さすがにそれをはっきり白黒つけてしまうと、

 せっかく築いた魔族と人間の関係が壊れちゃうんだね」


どうして三十年前まで続いていた戦争を止めて、

魔族とサータ王国が和平を

結んだかを授業で習ったことがある。

王国側は周辺国との緊迫が高まり、

魔族と争っている余裕がなくなったから。

人間の方が恐れをなしたんだ。

そして魔族側は百年前に誕生した聖女から連なる血族、

そう「三英雄」のような対等しえる存在が増えたら、

いつかは負けるかもしれないと考えた。

それに人間の技術の発達の早く、

それらを脅威を感じたから。

力を見せたマイナ様たちをきっかけにして

和平に応じたと習ったけれど……


「私が知ってる歴史だとこんなの」


「ならばわかるでしょう?

 前提がいわなくなってしまうのですよ。

 再び争いが始まることを誰も望んでいないのですから」


あまり賢くない私でわかった。

人間と魔族は全然対等なんかじゃなかったんだ。

ガロの話が本当だったら、

三英雄は御神輿に過ぎないのかもしれない。

そこで一つだけ疑問が生まれた。


「じゃあどうして魔族は和平に応じたの?」


その言葉にガロは苦笑した。


「みんな、『飽きた』のですわ」


私はフレデさんの姿を思い出す。

穏やかな顔で本を読んでいたあの人を。

争うことを望む人にはとても見えない。


「そっか……それなら仕方ないよね」


だからどんな理由よりも、私には理解できた。

街の喧騒が聞こえてくる。

明るいから鬼火がなくても、もう大丈夫。


「私たちとどう接するかは……

 貴方自身が決めることです」


案内はここまでとガロが肩から離れる。

石の見た目とは裏腹にパタパタとする羽で飛ぶ。

きっと彼女は振り返らず帰ると思う。

けれど私は、伝えたいことがあった。


「ねえ!」


気が利いた言葉なんて私には無理。

だけど、気持ちを伝えることはできるはず。


「寂しいのは……悲しいよ!」


意味なんて、わからなくてもいい。

その言葉は彼女にどう聞こえたのだろう。

ガロが息を飲む気配をした。


「そうね、寂しいのは悲しいですわ」


そして返されたのは穏やかな声だった。


「あとガロ、重たかったよ」


ガーゴイルは肩を竦めながら

暗闇の中へ帰って行く。

最後に振り返り一言、


「だって私、石像ですもの」


私は声を出して笑った。

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