第一章:Marriage meeting 04
「いや、気にしていないよ。
マイナさん、
確かに服は着るべきだったね」
ソファーに向かい合って座った
ヴァンパイアは私たちに笑みを見せた。
曰く、人間と違って、
その、股間は、まあ
特に急所というわけではないとのこと。
今はよれよれの縞模様服のシャツに、
これまたくたびれた感じのズボンをはいていた。
「本当に申し訳ありません、フレデ殿。
寛容なご対応に感謝します」
「すいませんでした」
マイナ様にならって再び頭を下げる。
きっと私のおでこは大変なことになっているだろう。
先ほどカバンを投げつけてしまった瞬間、
隣にいたマイナ様に凄い勢いで頭を掴まれて、
地面に額を叩きつけられて
強制的に土下座したからだ。
色んな意味で死を覚悟した瞬間。
やっぱり三英雄様は怖い人なのだと思う。
「それで、その子が話してくれた実習生?
なんだっけ、俺の世話係だっけ?」
「ええ……そうなのですが……
すぐに別の子を連れてきます」
さすがに初対面でいきなり
カバンを投げつけたので失格かもしれない。
私もせっかく紹介してくれたマイナ様に対して
とても申し訳ないことをしてしまったと思う。
フレデと呼ばれたヴァンパイアさんは
「うーん……」と少し考えて、
「えっと……あの……?」
私の顔を覗き込んできた。
先ほどは全裸のショックで意識はしなかったが、
まるでお伽噺に登場する王子様のような顔に
私は顔を逸らしてしまう。
多分、私の顔はリンゴよりも赤い顔をしている。
「マイナさん、この子で構わないよ」
「え?」
そこで一度かぶりを振って言い直した。
「いや、俺はこの子がいいんだ。
元々その予定だったんだから構わないよね?」
「それは……勿論ですけれど」
さすがのマイナ様も
戸惑いを隠せないようだった。
私は、ちらっとそむけていた顔を向ける。
すると、悪戯っぽい笑みと目が合う。
もしかして……私を庇ってくれたのかな?
(……よし、決めた)
「マイナ様、私にやらせてください!
さっきは失礼なことをしちゃいましたけど……
でも、私、やりたいんです!」
何を思ってのことかはわからない。
だけれどこの人が
私が良いと言ってくれているのだからそれに応えたい。
「ミミ……」
マイナ様は何か言おうとしていたが、
私とフレデさんの顔を見比べ
「わかりました。
二人とも、何かあれば私に言ってください。
些細なことでも構いません」
そう言って立ち上がった。
「フレデ殿、実習に関して規則はありません。
実習における取り決めは
二人で話し合って決めてください。
ただ、午前中はできれば空けて欲しい。
この子はまだ学院生、
午前中は授業がありますから」
「わかったよ。
適当にさせてもらう」
そして彼は、念を押すように告げる。
「君が心配するようなことはしないよ。
それは約束するさ」
「……私は貴方とは
例え些細なことでも争いたくはありません」
そのことにどんな意味があったんだろうか。
「それではミミ、
実習はレポートも義務づけられています。
一週間おきに必ず提出するように。
シスターセッチではなく私に直接持ってきなさい」
「はい、わかりました。
マイナ様、ありがとうございます」
マイナ様はそこでやっと
自分のローブが埃で
黒くなっていることに気付いたみたい。
少し嫌そうな顔をしたものの、
その場ではたくようなマネはしなかった。
普段の凛とした表情とは違う様に、
思わず私はくすっと笑ってしまった。