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黒のヴァージンロード  作者: テオ
最終章『Virgin Road』
42/50

最終章:Virgin Road 03

「私の名前を呼ばないでくださる?

 あなたにはその資格なんてありませんことよ」


カンッ!

不機嫌そうに足を強く踏み鳴らし、

ヒールが石畳に甲高い音を立てる。


「どうして?」


何故誘拐なんてしたのかと、

私は問いかけたけれど彼女は鼻で笑った。


「気に食わないから、

 それではいけないのかしら?」


誘拐だなんて王都でも重罪。

だっていういうのに……

たった一言……本当にそれだけが理由なんだって

悲しいけれどわかってしまった。


「どうして?」


もう一度、同じことを問いかける。

今度は違う意味を込めて。

彼女にとって、

やっぱりそれが気に入らなかったみたいで

不快そうにふんっと鼻を鳴らす。


「聖女の末裔であるあなたが、

 魔族と仲良くしてるだなんて

 おかしいと思わないのかしら?」


「なんにもおかしくないよ。

 だって、人間と魔族には

 争い合う理由なんてないんだから」


マイナ様たち三英雄の人たちが、

サータ王国を導いてくれたから。

あの人たちが王国を平和にしてくれた。

だから私たち聖女様の末裔もみな、

魔族を嫌う理由なんてどこにもないんだ。


「模範解答ですこと。

 カレンもそうだけど、

 あなたたちってホントおめでたいわ」


彼女がドレスの袖を少しまくりあげる。


「あっ……」


「見えるかしら?

 これは汚らしいオークにつけられた傷」


ちらっとだけど、

爪で引っかかれたような傷跡が見えた。

豪華なドレスで着飾る彼女にとって、

その一生消えることのない傷が、

耐え難いものなんだということは想像できる。

どういう経緯でその傷を負ったのかを

教えてはくれないけれど、

とても酷い出来事だったんだと思う。


「魔族は人間とは違う。

 何を考えているかなんてわからない。

 けれど私は知っていますの、

 彼らはみんな人間を見下す

 最低の存在だってことを」


吐き捨てるような台詞。

最初はこんなところに連れられて、

凄く怖かったけれど……

今は、とても悲しい気持ちになっていた。

フレデ商店に来てから私は

人間と魔族はお互いにただすれ違っただけなんだから、

きっといつか自然と仲良くなれると思っていた。

でも私は知らなかった、

溝はもっともっと深いってことを。


「セレスタさん、そんなことないから」


「だから私の名前を呼ばないでくださる?

 あなたにそう言われると、

 ほんっと腹が立つの」


カンッ!

再び彼女のヒールが甲高い音を立てる。


「ミスティミリア=アイネル。

 落ちこぼれの聖女の末裔」


彼女はつまらなさそうに言葉を続ける。

突然にフルネームで呼ばれて戸惑う。


「あなたの『それ』は母親から継いだもの。

 けどあなたが生まれたことで、

 元々病弱だった母は死んだんですって?」


「……どうして、そのことを」


私は訳が分からずに問い返す。

なんで今、そんな話をするの?


「調べたらすぐわかりますこと。

 ローサ王国の法では

 貴族、その中でも伯爵以上の家は

 男の跡継ぎがいなければお取り潰し……

 養子は認められない」


王都では貴族は血が途切れないように

本妻以外にも妾を何人持つことが多いと聞く。

どうして私のお父さんが

お母さんが亡くなった後に

私以外の子を産まなかったかを知らない。

けれど結果としてお父さんは消息を絶ち、

私だけが取り残されてしまった。


「あなたは『いらない子』。

 本当にその通りですわね」


彼女は嫌らしそうに

笑いながら見下ろしてくる。


「やめて……」


「人間からは捨てられて、

 魔族に取り入ろうとする浅ましい子。

 だから、あなたがいなくなっても

 誰も心配しないわよね」


「そんな風に言わないで!」


叫ぶ私を見て、

彼女は声をあげて嗤った。

心底おかしそうに、

ただ、嫌がる私を見てこの人は嗤う。


「私を、どうするの?」


そんなに彼女は私が憎いんだろうか。

直接会ったことが1度しかない私を。


「私ね、実は前々から

 興味があることがありましてよ」


地面に横たわる私の顔を覗き込み、

まるで玩具を楽しみにする

子供のような笑顔を浮かべた。


「ヴァンパイアの血。

 飲めば永遠の美が手に入ると言うじゃない」


……どこかで聞いたような話。

いつかの会話を思いだす。

確か、お腹を壊すんだっけ?


「……それは迷信だよ」


「あらっ、もしかしたて

 もうあなたは試したのでなくて?

 そんなに独り占めしたいのかしら」


私の頬をゆっきり撫でる……

まるで割れ物を触るかのように。

けれど


「いたっ!」


頬を思い切りつねりあげられた。


「随分と良い肌ですこと。

 対して手入れもしてないでしょうに。

 一目見た時から気に食わなかったの。

 何も考えてなさそうな呑気な顔。

 私が日々美しくあろうと努めているのに、

 あなたは魔族に媚びて取り入って楽をし、

 毎日がさぞ愉快なんでしょうね」


「そんなことない!」


「黙りなさい!」


頬を叩かれて私は地面に頭をぶつける。

痛みより、悲しみが私の胸を締め付けていた。


「もういいわ、

 あなたと話していても不快になるだけ」


彼女が誰かを呼ぶ。


「安心して、

 あなたを殺したりなんてしないから」


「……え?」


ぞっとする笑みを浮かべて、こう告げた。


「私の為だけに動く、お人形さんになるの。

 光栄に思ってくれていいわ。

 あなたならあの吸血鬼も油断するでしょう。

 だから血の一滴でも採ってきてもらうわ」


ザルマムさんが向こうからやってくる。

セレスタさんは彼に一言


「あとは任せるわ」


それだけ言って立ち去った。

強面のザルマムさんが、

私のことをすまなさそうに見下ろし、


「悪いな、お嬢ちゃん。

 俺も仕事なんだ」


そう言って何か呟き、

すると手に赤い光が生まれる。

どこか血の色を思わせ、

濁り、時折脈打つ感じの、

人を不安にさせる光……


「……やめて」


体が動かない私は、

それだけしか言えない。


――アレはよくないもの。


はっきりとわかる。

絶対に触れちゃいけない。

けれど逃げれない……。


「すまんな」


そう言ってザルマムさんは、

その光を私の額に押し当てた。


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