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黒のヴァージンロード  作者: テオ
第一章『Marriage meeting』
4/50

第一章:Marriage meeting 03

マイナ様の後ろに付いて店内に入ると、

まず最初に感じたのは

「カビ臭い」ということ。

更には本当は広いはずなのに、

所狭しと煩雑に散らばったモノのせいで

なんだかゴミ置き場の中に入ったかのような感じ。


(ゴミ? いや商品なのかな……?)


何かの液体の入った瓶が多くて、

ひょっとしたら元製薬所なのかもしれない。


完全に場違いで浮いてしまう

マイナ様の純白のローブ。

綺麗な白地はすぐに埃で黒くなってしまったが

気付いていない様子で奥へと進む。

それだけ余裕がないのかもしれない。


ああ……早く洗わないと

取れにくくなるのになぁ。


「フレデ殿、おられますか!」


さてこれはいよいよ大事だ。

何せマイナ様が「殿」と呼ぶ相手なのである。

正直、国王より地位の高いとも言えるこのお方が、

敬称をつける相手など私にはまるで想像ができない。


「んー……」


奥から気怠そうな声が聞こえてくる。

どうやら若い男性の声っぽいけれど……


「フレデ殿……本日会いに来ると

 お伝えしていたではないですか」


「あー……マイナさんね。

 ごめん、寝ていてすっかり忘れていたよ」


(ぇぇー……どういう人なの!?)


気になることが多すぎて

私はパニックになっていた。

緊張でカバンを持つ手ががくがく震える。

けれど、それがよくなかった。

マイナ様がいるのだから

何も慌てることなどなかったのに。


「お待たせ、マイナさん」


奥の部屋から出てきたその男性を見て、私は固まった。


「え……」


ぱっと見は人間なのだけれども、

でも私たちと同じ「人」ではないことがすぐわかった。

透き通るほど白い肌。

人とは違う横に尖った耳と、

頭にはコウモリの羽のような小さな羽。

そして口元から覗くのは鋭い犬歯……


――それはおとぎ話に出てくるヴァンパイア

  人が恐れ慄く恐怖の象徴たる魔族。


「おや、そっちの子は?」


男性が私を見る。

人ではないのだから、当然かもしれない。

私が今まで見てきた

どんな男性よりも「綺麗」だった。

まるで光を粒子が舞うようになびく銀髪。

宝石よりも妖しく艶めかしいサファイアのような赤い瞳。

顔立ちは無駄な部分が一切ないスマートな輪郭。

どこか優しげで、

それでいてどこか蠱惑的な魅了する柔和な笑み。

一つ一つの要素だけでも素晴らしいのに、

どんな高名な彫刻家や画家が

理想の男性を描いたとしても、

今、私の目の前にいる美形には叶わないだろう。


「あわわ……」


そしてすらりとした肉体。

少し華奢な感じではあるが、

それでも男性らしい逞しさのある体。

クラスメイトのマリーが

「スリムマッチョって凄くそそるよね」と言っていたのを

今、思い出してしまった。


それを前にした私はただ……


「いやあああああああああああああああ!」


絶叫した。


「えぇ!?」


ヴァンパイアさんは

いきなり叫びだした私に戸惑いの声をあげるが

私はそれどころではなかった。


「服を着てくださいーーーーーーー!!」


そう、男性は何故か全裸だったから。

免疫のない私はもうどうしたらいいかわからず、

ただパニックになってしまい


「あ、服?

 えーとどこにあるかなー」


そう言って私たちのいる部屋に入ってくるのだが


――揺れる揺れる


「ミスティミリア=アイネル!

 お待ちなさい!」


近づいてきた蛇に、

私は思いきりカバンを投げつけてしまった。


その時のまるで国の滅亡を前にしたかのような

マイナ様の絶望と恐怖に満ちた顔を

私は一生忘れないだろう。


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