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黒のヴァージンロード  作者: テオ
第四章『Go a long way』
33/50

第四章:Go a long way 03

大通りで待っていた馬車は

無骨だけど頑丈そうなモノだった。

御者の席には2人座れて、

後ろには六人くらいは十分入れそうな荷台。

その中型の馬車を引く栗毛の馬たちは

随分と逞しい体つきだった。


「えーと……」


年季の入った幌に書かれた

『お肉、大好き!』の文字。

もうそれだけで誰が所有する馬車か

わかってしまった。


「『お肉、大好き』の店主が、

 森に狩りに行くと聞いていたからね。

 ちょうど良かったし

 便乗させてもらうことにしたんだ」


衝撃の真実に、

私は心の底からビックリした。


(あれが店名だったんだ!?)


なんだかフレデ商店って

ありきたりだなぁと思ってたけれど、

そういうシンプルなのでいいと改めて実感した。

『素敵色パラダイス医院』とか、

なんかもう口にも出し辛い。

あれ、あのネーミングって

ブリードさんの奥さんがつけたって言ってたし、

もしかして人間の方が

ネーミングセンスがないのかな……


「……フレデさん、

 この前はありがとう」


店主がぼそっと礼を言う。

フレデさんは構わないよと

手を振りながら乗り込む。


「今日は悪いね、

 すまないけれど頼むよ」


「……これくらいお安い御用だ」


ガロは幌の上で、

マリクは馬車の後ろに座る。


「ミミ!

 今度さ、一緒に何か作らない?

 いい肉料理のレシピあるんだよ!」


「うん。

 今度はなんか

 サンドイッチみたいなの作りたいから

 そういうの何かないかな?」


店主さんの横に座るトラが嬉しそうに顔を出す。

この前のシチューのお礼を言いに行ってから

私たちは仲良しになっていた。

肉屋の娘だけあって、

肉の調理とか保存、見分け方とか

本当に詳しくて話していてとても面白い。


「……ん」


全員が乗り込んだのを確認してから、

店主さんが馬車を出発させた。

カタカタと軽快な音をたてながら、

石畳の上を走っていく。

南東の森へ行くには南部の門からが近い。


「主様、見られていますけれど、

 どういたします?」


突然にガロがそんなことを言い出した。


「とりあえず連れてきて話聞くか?」


マリクがよっこいせと立ち上がるが、

フレデは首を振った。


「相手にする必要もないさ。

 何かしてきたなら

 その時に相手をすればいい」


そのやりとりがよくわからなくて

私とトラが首を傾げた。

そんな私たちにフレデは首を竦める。


「何かあれば俺たちが何かするより、

 ロイヤルガードが先に動くよ。

 そういうモノだからね。

 俺にちょっかいをかけるのは

 相当リスキーだし、

 しかも何もメリットもないさ」


トラが興味津々な様子で、

御者の席から後ろを覗き込んでくる。


「アンタ、そんなに人気者なのか?

 とてはそうは見えないんだけど」


「……トラ」


咎めるような父親の声に、

娘は聞こえない振りをしていた。

それに答えたのは

後ろで暇そうにしているマリク。


「なんつーか、

 特に人間たちの中には

 愉快な勘違いをしてる奴が多くてよ」


言い出したはいいけれど、

結局思い出せなくてマリクは

なんだっけなと頭を掻く。


「ヴァンパイアの血を飲むと

 永遠の美貌が手に入るとか、

 髪を集めて編むと厄災のお守りになるとか……

 数え上げたらキリがありませんわ」


ガロが愉快そうに笑う。

そういえば教室でも

そんな話を聞いたことがあるかも。

そもそもがヴァンパイアなんて

都市伝説みたいな扱いだし、

噂だけが独り歩きをしてるんだろうなぁ。


「ちなみにホントに血を飲むと効果あるの?」


「お腹壊しますわよ」


そういうことらしい。


「……自分が怖いモノほど、

 蠱惑的に見えてしまうものだ」


ボソリと店主さんが言う。


「禁忌を犯す快楽、

 それには抗えない、それが人間だ」


一瞬、私はなるほどと頷きかけたが


「とっちゃん!

 そう言ってこの前の食中毒のこと、

 さも当然みたいに言うのダメだからな!」


「……むぅ」


そういうことらしい。


「人間は魔族より賢いし想像力が豊かだ。

 だからこそこんなにも綺麗な街並みも作り、

 多くの人が集まっても暮らせている」


フレデはどこか羨ましそうに街を見回す。


「魔族はそんなに違うの?」


「同じ種族が集まって

 色んな生活をしてるからね。

 あと強い者には逆らわないから

 争いごとも少ないものだよ」


なんだか魔族は荒くれモノが多いみたいな

イメージを実習に来るまでは持っていたけど、

実際には人間よりまとまりはいい気がする。


「争いがないのは

 良いことだけではありません。

 戦いの歴史の中で生まれるモノも多く、

 それが人間の文明を支えているのです」


なんだか難しい話だ。

私もトラもあまりピンとは来ない。

マリクが面倒臭そうに手を振りながら、


「ンなことは私たちには関係ねーんだよ。

 大事なのはこれからどんな素材集めるか、

 うまい肉が採れるか、それだけだ」


「……その通りだ。

 人間であれ、魔族であれ、

 うまい肉を食えればそれでいい」


「とっちゃん!

 絶対わかってないだろ!

 知ったかぶりしてもわかるんだからな!」


「……そういう、わけではないが」


賑やかな道中。

なんだか色々難しいことはあるけれど、

私はやっぱり楽しい方がいい。


「フレデ、

 店主さんたちも張り切ってるし

 明日はご馳走にありつけそうだね」


「そうだね。

 俺たちも食材になる木の実でも採っていこうか」


私はフレデとそう言って笑いあった。

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