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黒のヴァージンロード  作者: テオ
第四章『Go a long way』
31/50

第四章:Go a long way 01

「うん、寝る前に軽く一杯飲むのはいいけど、

 でも過ぎると良くないんだよ。

 あと麦芽酒より果実酒とかの方がいいかも」


眠りが浅くて困っている

若い女性に睡眠薬を渡しながら

私はアドバイスをする。

それはきついモノではなく、

少し眠たくなるて程度の薬。


「なるほどなるほど、

 勉強になるっすねぇ」


そう言ってお客様の女性は

うんうんと頷いてくれる。

栗色の髪を適当にサイドでまとめており、

そばかすの残る顔が

なんだか愛嬌のある顔立ちの女性だ。

少しひょろっとした体格で、

腰に下げた二本の短刀に

随分と傷だらけの革の軽鎧を身に着けていた。

彼女は先月くらいから

王都を活動の拠点にしている冒険者なんだって。

冒険者というのは便利屋で

魔物討伐や用心棒、

商隊の護衛をしたりする仕事らしい。

傭兵との違いは

必ず戦争にだけは加担しないことだとか。


「しっかし、驚いたっす。

 まさか聖女様の末裔様が

 王都の隅にある薬屋で出迎えてくれるとは」


「そんな末裔様だなんて大層だよ。

 子孫と言っても私以外に

 たくさんいるんだから」


少し変わった訛りで話す彼女は

ニカと名乗った。

他の国から流れてきたというだけあって、

「聖女を無条件に崇拝」みたいな感じはないし、

魔族と戦争をしていない国で生まれたから、

二十歳になった今まで

魔族を一度も見たことなかったらしい。

街中にサイクロプスが歩いてるのを見て

「おおぅ……でっかい」

みたいな感想を抱いたんだって。


「冒険者ってことは色々旅をしてるの?」


「そうっす。

 ここから南東のトウテツから

 渡り歩いてきてるっす。

 年中暑い国で生まれ育ったから

 こっちは寒くてたまらんっすよ」


地図でしか知らないけど、

私たちのいるサータ王国からトウテツは

3つくらい間に国を挟んだ遠方地。

私にはとても想像できない場所だ。


「空を群れで飛ぶクマとか

 集団でチークダンスする岩竜とか

 もー、世界には不思議なことがいっぱいっすよ!」


ニカさんは大げさな身振り手振りで

どれだけ大変だったか伝えてくれる。

彼女は必死に伝えようとしてるんだけど

その動きが面白くて私は笑ってしまう。

冒険者の人って

なんだか怖いイメージがあったんだけれど

この人は全然そんなことがなかった。


「色んな国かあ……」


私は生まれてから王都からすら出たことがない。

だから正直ちょっと憧れる。

今は他にお客さんがいない、

というか今日はニカさんしか来ておらず

雑談をしてかれこれ1時間にはなる。

そんな時に店の奥からフレデが出てきた。

ニカさんは彼を見て「超イケメンキタコレ!」

と不思議な方言を叫びつつ

なんだか興奮していた。


フレデは申し訳なさそうな顔をしていて


「ミミの友人に頼まれていた肌に塗る薬だけど、

 今見たら少し材料が足りないみたいだ」


「そっかー……それじゃ断っておくね」


「すまないね。

 明日にでもガロに市場で探させるよ。

 けれど夏に手に入るモノだから、

 あるかどうかわからないんだけど」


そんな私たちのやりとりを見ていた

ニカさんが訪ねてくる。


「どんな材料なんっすか?」


フレデは握り拳を見せた。


「大きさはこれくらいの

 ゲッカの木の実さ。

 温かい季節に採れるものでね」


それを聞いて、

ニカさんは何かを少し考えて


「あ、それなら多分、

 王都の外、

 南東にある森になら今でも採れるっすよ」


簡単に言ってみせた。


「えっ、

 こんな寒い時期に夏の木の実が採れるの?」


疑問を口にする私に彼女は頷き、


「私は森を突っ切ってこの王都に来たっすけど

 その時に森の奥で見かけたんっすよ。

 ある一帯だけ、

 なんか妙に熱いくらいだったんす。

 地下に何かあるみたいでその影響らしく、

 お蔭で泉は温泉になってて

 つい長居してしまったのでよく覚えているっす」


余程気持ちよかったのか、

思い出してほわーとした顔をしていた。


「へー、王都の傍にもそんなところがあるんだね」


それにしても年中通して暖かい場所かぁ。

なんだか想像ができない。

フレデは「なるほど」と頷き、


「そこの大体の場所はわかるかい?

 目印とかあると良い。

 もし教えてくれたら

 その薬の代金の代わりとするよ」


「マジっすか!

 大丈夫、冒険者の記憶力に任せて欲しいっす!」


目を輝かせて地図に

何やら色々と彼女は書き込んでいく。

フレデは私に向き直り


「せっかくだから、

 明日そこへ行ってみようか」


まるでピクニックに誘うみたいに

気軽に私に言ってくれる。

フレデはいつも突然に

私がビックリすることを言う。


「それは良いんだけど……

 私、森の中とか歩いたことないよ?」


森は慣れていないと

凄く疲れてしまうと聞いたことがある。

それに私は体力も少ないし、

とてもじゃないけれど行ける気がしない。


「それは大丈夫だよ。

 きちんと用意はしていくから」


「用意?」


「そうだね。

 だからミミは心配しなくていい。

 大事なのはミミが行きたいか行きたくないか、かな」


そこまで言ってくれるなら

私の答えは決まっていた。


「うん、じゃあ行きたい!」


満面の笑みで答える。

なんだか楽しくなってきた。

まるでデートに行くみたいな感じ。

お弁当とか作った方がいいのかな?


「明日の夕方から出ようか。

 少しだけ遠い場所かもしれない」


「うん。

 じゃあ明日はお店はお休みだね」


きっと学園は休むことになりそう。

シスターセッチが

また嫌な顔するんだろうなぁと

関係ないことを思いだしてしまって

私は想わず苦笑してしまった。


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