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黒のヴァージンロード  作者: テオ
第三章『Share and Share』
30/50

第三章:Share and Share 09

夕食をみんなで食べて、

寝る準備も整えた私はフレデの部屋に来ていた。

薄暗い部屋の中で

フレデはいつかの時と同じように

窓に腰かけ、月明かりで本を読んでいる。


「フレデ、何を読んでるの?」


「とある船乗りの航海日誌だよ。

 古本屋で何となく買ってね。

 海を見たことがないから読んでみたんだ」


私の腰掛けた質素なベットが

キシッと小さく軋む音を立てる。


「面白い?」


「つまらないね。

 書いた船乗りの彼は

 毎日酒を飲んで海を眺めているだけだ」


「ふふっ、変なの。

 どうしてそんなのを読んでるの?」


私は思わず笑ってしまった。

彼はおどけて「どうしてだろうね」と肩を竦める。


「眠れない?」


「ううん、そういうわけじゃないけれど。

 少し、お話がしたい気分だったから」


パタンと航海日誌を閉じる。


「フレデはどうして王都で暮しているの?」


そう言えば今まで

聞いたことがなかった気がする。

尋ねると彼は困ったような顔をした。


「実はそんなに深い理由はないんだよ。

 昔の知り合いが生まれ育った街……

 だから住んでみようとその程度だから」


「知り合い……?

 それにもしかして

 今まで住んでいたところが退屈だった?」


「そうかもしれないね。

 生きること以外に

 あまり興味を持たない魔族に比べて

 人間の街はいつも活気と驚きで溢れている」


ヴァンパイアは孤独になると

死んでしまうらしいから、

暮らしの息吹みたいなのが

恋しくなるのかもしれない。


「他のヴァンパイアは大体が辺境に暮らしてるからね。

 と言っても、知ってるのは三人しかいないけれどさ」


「ふーん。

 どんな人たちなの?」


みんな彼みたいな性格なんだろうか。

私の疑問は顔に出ていたみたいで、

彼は首を振って否定した。


「みんな変人揃いさ。

 始祖たるシンは

 ずっと棺桶の中で寝てるし。

 まあ他の2人も大体も大概さ」


「始祖?」


初めて聞いた言葉だ。


「そうさ。

 全てのヴァンパイアは彼女の系譜。

 初めに俺ともう2人を吸血鬼を生み出した。

 俺は眷属を増やしたことはないけれど、

 他の2人から最初は積極的に

 ヴァンパイアを増やしていたみたいだね」


フレデはただの

ヴァンパイアじゃない気がしていたけど、

どうやら物凄く古株だったみたい。


「ヴァンパイアかぁ……

 最初になった時はどんな気分だったの」


「さあ……憶えていないね。

 時間が経てば経つほど、

 以前のことはどうでもよくなってしまうから」


そう言って少し悪戯っぽく笑っておどける。


「俺には昔のことより、

 今日の夕飯にミミが作ってくれた

 海鮮グラタンのことの方が大事だよ」


「私も初めてだったんだけど、

 ランチで食べて海の幸に感動しちゃって。

 フレデも気に入ってくれて良かった」


私も笑ってしまった。

食材は勿論、すごーく高かったけれど、

ガロがお金を出してくれたので奮発してみた。

フレデに喜んでもらえたようで何より。

でもマリクは食べ辛いってぼやいていたけれど。

ちなみにこの家にはオーブンなんてないんだけど、

ガロが石窯みたいな形になって

魔法で焼きあげていた。

……ガーゴイルって何なんだろうって

最近事あるごとにいつも思う。

それから少し、フレデと話した。

学院のこと、お店のこと、

私の友達のこと……


取り留めのない話ばかりだったけれど、

その一つ一つに

フレデ相槌を打ちながら聞いてくれた。

だからお蔭で

今日、昼間のカフェの時からずっと

私の中に残っていたもやもやがすっきりした。


「あっ」


そこでそういえば一つ聞きたいことが

あったのを思い出した。

マイナ様に学院長室で言われたこと……

直接聞いてみよう。


「フレデって、聖女様……

 ティスティリア=ローゼ様と会ったことがあるの?」


100年も前の話だから、

フレデもあまり覚えてなさそうだけれど。


「ティア、か」


彼は、愛称で聖女様のことで呼んだ。

フレデは窓に腰かけたまま夜空を見上げる。


「会ったことはあるよ。

 もう随分と前だから、

 いつ会ったか曖昧だけど。

 ……でも、はっきりと彼女のことは覚えている」


時折見せる寂しげな笑顔……

けれどいつもと違うのは、

その中にどこか後悔したような色があること。


「周囲が心配するくらいに一生懸命でさ。

 明るくて、誰に対しても優しくて思い遣りがある……

 まるでヒマワリのような女性だったよ」


遠い、遠いどこかへ視線を向け、

もう届かない何かを

掴むように手を伸ばしていた。


「自分の心に正直で、俺には眩しすぎた」


静かな室内に、

その言葉は染み渡るみたいに響く。

気付いたら私は立ち上がっていた。

そしてその伸ばした手に、

私は手を合わせてそしてゆっくりと繋いでいく。


(なんだろう、不思議な感覚)


私が意識してした行動じゃないのに、、

まるで、私の中にいる誰かが、

フレデに何かを

伝えようとしているみたいに手に力を込める。


「ミミ……」


フレデが、私を見て、

そして違う誰かと一緒に見ている気がした。


「そう……ティアは

 君のように綺麗な人だった」



第三章:share and share ~完~


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