表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒のヴァージンロード  作者: テオ
第二章:Run a household
19/50

第二章:Run a household 07

フレデ商店に戻ると

なんだか凄く大きな魔族の人が出てきた。

250はあるじゃないだろうか。

私の倍近い身長はある気がする。

少し緑がかった皮膚の色に

目が一つしかない。

ギョロッとした感じで見下ろしてきた。

けれどすぐにフレデさんに気付いて

跪くんだけど……

そうなると岩の塊にしか見えなかった。


「ありがとう、エイランド。

 つまらない用事を頼んでしまってすまないね」


彼はふるふると首を振って


「……もっと、我らを頼ってください」


それだけ言って、のそのそと歩いていった。

よくよく見るとなんだか全身が埃まみれだ。

もしかしてと思って店内を覗くと


「わあ……凄く綺麗になってる」


割と古い建物だから

新築みたいには無理だけれど

それでも丁寧に掃除したってすぐわかる。

目立つ汚れはほとんどなくなっていた。


私はすぐに店から出て、

まだ背中の見えているエイランドさんに叫ぶ。


「ありがとう、エイランドさん!」


すると一つ目さんは振り返って


「……」


ぺこっと軽く会釈して歩いて行った。


「エイランドはシャイなんだよ」


「でも、良い人そうだね」


「今度、ここへ食事に呼んでみるかい?

 彼はああ見えて、料理も上手だからね」


「うん、楽しみにしてる」


根本的な問題として、

フレデさんの家の台所に

あの体じゃ入れないんじゃないかなぁと思った。

私は店内に戻り、色々と見回していると


「あれ、

 こんなのあったんだ?」


カウンターの中には見覚えのない

記帳や筆記用具などの文具。

またソロバンや、硬貨が本物か確認する秤とか、

商売するのに必要なモノが一通り増えていた。

どれも真新しいモノだけれど……


「ああ、それは

 クレリエッタが用意してくれたんだろうね」


クレリエッタさんは

娼館を経営してるって聞いたけど、

こんなに早く用意できるなんて

なんだか色々と凄い人だなぁと思う。


「これできちんとお店ができるね」


私はこれからのことを考えて、

ワクワクした気持ちを抑えられなかった。

そんな私にフレデさんは微笑む。


「それよりもさ、

 ミミに見てもらいたいモノがあるんだ」


「え、え?」


「こっちだよ」


私の手を引いて奥へと向かう。

フレデさんは多分、

深い意味はないんだろうけどこうして突然に

手を繋いだり頭の撫でられたりすると……ドキッっとする。


今を抜けて、階段を上る。

屋根裏部屋は物置だって言っていたはず。


「え……?」


てっきり初めて来た時の店のような

ごちゃっ!とした様子を想像していたんだけれど……


「……これは?」


ベットを中心に勉強机やクローゼット、

本棚に化粧台など必要なモノが一通りあった。


「誰か暮らしているの?」


「いや、この家にはまだ俺以外暮らしていないよ」


フレデさんは言い辛そうに視線を逸らしながら、


「マイナさんに昨日少し聞いてね。

 ミミは学生寮から出てしまうと

 暮らすところがないんだろう?」


「う、うん……そうだけど」


戸惑う私に、

フレデさんはその言葉を言ってくれた。



「――だからね、好きに使うといいよ」



それは、どんな意味が込められているのだろう。


「どうするかは、ミミの自由だ。

 下の薬を売ったお金が余っていたからね。

 どうせもう使う予定もない部屋だから」


私は、あえて深くは考えなかった。

だって、今はただ、嬉しかったから。


「ありがとう、フレデさん」


まだ本当に出会って間もないけれど、

きっとこの人なりに私のことを考えてくれたんだ。

それは、今まで必要とされてこなかった私にとって

「ここにいてもいいよ」と言ってもらえた。


フレデさんは私の手を引き窓を開けた。

そこには小さなベランダがあり、

階段がついていて屋根へと続いていた。


「もう暗くから気を付けて」


そこは屋根の上。

このあたりの建物は平屋が多いので、

少し高いここからなら周囲を見回せた。


「……王都って、こんなに広かったんだね」


遠くには大きな王城がある。

そしてその場には私の通う学院の灯りも見えた。


「俺もここには久々に来たよ」


フレデさんは「上を見てごらん」と促してくる。

私はなんだろうと思って空を見上げると


「わあ……」


一面の星空があった。

新月の空、

小さな星も強く輝く星も

みんなみんな私たちを照らしてくれているみたい。

私が初めて見る、自然のプラネタリウム。

いつもいる中央部は夜でも明るいから、

こんな風に星空を見ることはできなかった。


「こうして、誰かと星空を見上げるなんて、

 ……久しぶりだな」


ぽつりとフレデさんが呟く。

空を見上げるフレデさんは、

なんだか切なそうな顔をしていた。

誰かを、想いだしているんだろうか・


「ミミ、ヴァンパイアは

 どうやったら死ぬか知ってるかい?」


唐突にそんなことを言われた。


「う、うーん……銀の矢で心臓を撃ち抜かれる?」


私が知ってるのはそれくらいだ。

その言葉に首を振る。


「ヴァンパイアはね、殺すことはできない。

 灰になったしても蘇生するからね」


ならヴァンパイアは完全な不死?


「――孤独さ」


「え?」


「ヴァンパイアは生きる意思を失うと、

 消滅するんだ、音もなくね。

 それがヴァンパイアの唯一の死」


それは、どういう意味だろうか?


「どうして自分がいるのか、

 考えるのを止めちゃったら死んでしまうの?」


フレデさんは頷く。


「そうさ、だからヴァンパイアは

 本能的にぬくもりを求める。

 眷属や使い魔を生み出す力は、

 ただ、そのためだけに存在するんだ」


悠久の時を生きるこの人は、

今まで何を想って生きてきたんだろうか。


過去のことはわからないけれど、

でも、今のことなら少しはわかる。

もしかして誰かと繋がりたいから、

この王都で小さな商店を始めたんじゃないだろうか。


「寂しいのは……悲しいよ」


私は、呟いてた。

繋いだままだった手に力を込める。

寂しそうな顔をするフレデさんに私は伝える。


「私が、一緒にいるから!

 いつまで一緒にいられるかわからないけれど!」


フレデさんが驚いた表情を浮かべる。

だって私も、寂しいから。

私なんかじゃ、

この人の温もりになれないかもしれない。

でも、一人じゃないって伝えたかった。


「フレデさん……ううん」


私は言い直す。


「フレデ、だからお願い。

 そんな悲しそうな顔をしないで」


彼に伝わって欲しい、私の想いが。

フレデは何かを言おうとしたけれど、

うまく言葉にできないみたい。

だから私は待つ、この人の言葉を。


「俺は……」


しばらくして、彼が口を開いた。

そんな時だった。


「くしゅんっ!」


せっかくの大事な時に、

私はくしゃみをしてしまった。

そういえば、屋根の上は寒い。

そんな私を静かに微笑んだフレデは、


「体が冷えてしまったね。

 中へ戻ろうか」


優しく包み込んでくれた。


ヴァンパイアは体温が低いというけれど、

でも、私の心は暖かくなっていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ