第二章:Run a household 04
薬じゃない関係ないモノまで持って帰ろうとした
ケンタックさんをなんとかなだめたり、
ナターシャが凄い勢いで金勘定をしている姿が
普段と違いすぎてちょっと引いてしまったり。
色々あったけれど
マリクとガロも手伝ってくれたので、
あれだけたくさんあったモノも
なくなり随分とすっきりした。
いくつもの荷車一杯に詰め来れた木箱の山を、
逞しい運び手たちは苦しそうな表情で運んで行く。
あれだけ重たい物を運べるのは凄いと思う。
「ミミ、今日はありがとうね。
私もこれで実習先でやりやすくなるよ」
嬉しそうナターシャは
運ばれて行く荷物を見送る。
彼女のお下げも機嫌が良さそうに揺れていた。
「そっか、大変なんだね」
「うん。当主様は厳しい人だから。
……私は認めてもらえたら
そのまま務めさせてもらいたいと思ってるの」
そう言って笑う。
「でも私はまだいい方なんだよ。
カレンの実習先は上流貴族なのだけど、
あの子は護衛をしているっていう
お嬢様が大変なんだって。
色々悩んでるみたいだから、
今度話を聞いてあげて」
私は頷いた。
そういえば実習自体に今まで
あんまり興味がなかったら
みんなのことを私はあまり知らない気がする。
カレンだけでなくマリーにも今度話を聞こう。
「ナッッッッターシャッッッッ!
早くいくぞーい!
時は金なりだぞいぃぃぃぃ!」
ケンタックさんの叫び声に
慌てて彼女は走って行く。
「ミミ、頑張ってね!」
「ナターシャもねー!」
手を振って姿が見えなくなるまで見送る。
私は一息ついてから、「よし」と頷く。
「次は掃除しないと」
そもそもの目的は掃除することなんだから。
モノを減らしたのは最初の一歩でしかない。
私が意気揚揚と店内に戻ると、
フレデさんと使い魔たちは
何かを話し合っていた。
今から掃除をしようと思うんだけれど、
どうしたんだろう?
一人と二匹は私が戻ってきたことに気付き、
「ミミ、少し出かけようか」
フレデさんがそんなことを言い出した。
「え、でも掃除はこれからだけど……」
「大丈夫だよ、
昔馴染みを代わりに呼んでおいたから」
少し待っててと言い残し、自室へ入って行った。
私は何なんだろうと思っていたけど、
マリクとガロはなんだか忙しそうで聞けなかった。
といっても二匹はナターシャが置いて行った
硬貨を高く積むという
よくわからない遊ぶをしてるだけだけど。
ガロはわかるけど、
マリクも器用に硬貨を掴むなぁと感心する。
「お待たせ、久々に着る一張羅だから手間取ったよ」
奥から出てきたのはピシっとした
燕尾服に身を包んだフレデさんだった。
貴族たちがよく着用するのを見るけれど、
私はいつも
「なんだかお金持ち自慢っぽいなぁ」と思っていた
主に夜に着ることが多い礼服だけれども……
「ほわ~……」
私は認識を改めざるを得なかった。
スラッとした立ち姿に、
汚れ一つない黒い服は
まるでお伽噺から飛び出してきたようだ。
本当は中のシャツは白いはずだけれど、
フレデさんは黒いのを着用していた。
それが覗く肌の白さを余計に際立たせていた。
黒と白のコントラスト……
白銀の髪が揺れるのが
まるでスローモーションみたいに見える。
「シェルマリク、ガロ……留守は頼むよ。
エイランドが来たら掃除をさせておいてほしい」
二人の使い魔は硬貨積みから目を離すことなく頷く。
「おうよ、綺麗にしとくぜ」
「ミミ、楽しんできてください」
颯爽と歩くフレデさんに慌てて
私はついていくけれど、
本当について行っていいんだろうかと思う。
だって、私は地味な制服なのだ。
完全にピシっと決めた正装の
美形であるフレデさんの隣を歩くには勇気がいる。
「さあ、行こう……ミミ」
けれどフレデさんはお構いなしに、
私の腕を組んで外へと飛び出した。
「う、うん……!」
私は、今この瞬間だけは……
まるでお姫様になったような気分だった。