表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒のヴァージンロード  作者: テオ
第二章:Run a household
15/50

第二章:Run a household 03

「掃除しよう!」


フレデ商店に来た私は開口一番そう告げた。


「えーと……」


フレデさんが困ったように頬を掻く。

その顔には「面倒くさいなぁ」というのが

ありありと書かれていた。


「でもさ、ほら、

 ここには簡単には捨てれないモノばかりだし……」


きっとそういう逃げ道を考えてると思った。

店舗部分は純粋にモノが多すぎるから、

それをなんとかしないと

ここを掃除することはできない。


「フレデさん、ここにあるのって、

 売り物だけどずっと残ってるんだよね?」


「うん、そうだね。

 だから売ってしまわないことにはなくならないかな」


「じゃあ大丈夫!

 ぱーっと売っちゃおうよ!」


だから私は手を打っておいた。


「え、いや……売るってそんな無理だよ」


そんな風に消極的なフレデさんだったけれど、

外から聞こえてきた音に「ん?」と振り向く。

それはたくさんの車輪が回る音。

荷車だと思うけれど、

その数は1つや2つじゃない。


「ミミ、ここで良いの?」


入口から顔を出したのは、ナターシャだった。

そしてすぐにフレデさんを見つけて

「わっ!」と驚く。

彼女にあわせておさげが

飛び跳ねたのが面白かった。


「えっと、その……」


ナターシャが戸惑うのも無理がないかなぁと思う。

フレデさんはすぐに見てわかるヴァンパイアだ。

それにとっても格好いいし、

それなのにだらしない

服装をしているから戸惑うんだと思う。


「ここが私の実習先だよ。

 こちらはフレデさん、ここにお世話になってるの」


「あ、ああ……フレデ=ストルだよ」


突然のことにフレデさんも驚きを隠せないみたい。

普段はそれくらいここに人は来ないみたいだから。


「えっと、私はナターシャ=アーマールートです。

 ミミと同じ学院のクラスメイトです」


慌ててナターシャも頭を下げた。


「それで、ミミ。

 これはどういうことだい?」


私は頷いて答える。


「ナターシャの実習先のところに、

 まとめて買ってもらおうと思って。

 ほら、個人一つ一つ売ったらこれだけの数、

 整理できないから!」


フレデさんからすると、

本当にきちんと買ってもらえるか不安。

そしてナターシャからすると、

本当に売る価値のあるモノがあるのか不安。

それは私もわかっていたけれど、

けれどうまくいく自信があった。


「なんだなんだ騒がしーなぁ」


「一体なんですか?」


マリクとガロが奥から出てくる。

それを見てまたナターシャがびっくりするけれど、

呑気に自己紹介するよりもしてほしいことがあった。


「ちょうど良かった!

 ガロ、何か一つ、お勧めの薬を出して」


実は事前にちょっとだけガロに相談していたのだ、

商人にきちんと買ってもらうにはどうしたらいいのか。

ガロも、きちんとそのことを覚えていたのだと思う。

ひょっと棚へ飛び、

すぐに一つの薬瓶を持ってきた。


「それでしたら、これとかどうでしょう?」


ナターシャは受け取って薬瓶を眺めていたが、


「ケンタックさん!

 これを鑑定してもらえませんか?」


入口から入ってきたのは、

なんだか足腰が心もとない、

メガネのおじいさんだった。


「ケンタックさんはソーダス商会でも、

 一番の鑑定士として名高い人なの」


そう言って説明してくれるけれど、

中々に癖が強そうな人だなぁと思う。

でもそんな人をナターシャは

私を信じて連れてきてくれたんだ。

「なんでワシがこんなところに……」と

ぶつくさ言いながら瓶を受け取る。


「それは、栄養剤の『ナイチンゲール』ですわ」


ガロが中身を教えてくれるが、

おじいさんは鼻で笑う。


「はっ、そんな精製の難しい薬がこんなところにあるわけ……」


しばらく眺めて、

瓶をあけて匂いを嗅いだりしていたけど、


パリンッ……


メガネがずり落ちて床で割れた。

しばらく放心していたけれど、


「ナターシャ君。

 宝探しを始めるぞい。

 一分一秒が惜しい」


突然シャキッとしてさっきまでとは全然違い、

凄く頼もしい声色でそんなことを言い出した。

どうやら御眼鏡にかなったみたい、

眼鏡は割れたけれど。

私が親指を出したら、

ガロがウインクしていた。


「あっ、ナターシャ……お願いが」


鑑定作業に入ろうとしていた彼女を引き留める。


「どうしたの、ミミ?」


私はメモ帳を渡す。


「そこにも書いてるんだけど……

 できれば売りやすい薬は残して欲しいんだ。

 なるべく価値はあるけど

 動きの悪いものを引き取って欲しいの。

 相場の半分でもいいから、即金で」


「いいけれど………どうして?

 それじゃあフレデ商会に損だと思うけど」


驚いたような顔をするナターシャ。


「うーん、説明し辛いんだけど、

 お願いしたいなって」


「うん……ミミがそういうなら」


薬の配置とか種類を知っているガロとマリクが、

ケンタックさんの手伝いをしていた。

決まったモノから

なんだか逞しい男の人たちが、

せっせと外の荷車へと運んでいく。


突然のことに驚いていたフレデさん。

私は何の説明もなしに初めてしまったことを謝る。


「ごめんね、勝手なことをしてしまって」


「いや、構わないよ……

 むしろよくここまで

 思い切ったことをしたなと驚いてるよ」


フレデさんと並んで

私はどんどん片づけられていく様を眺める。


「さっきのクラスメイトとの会話を聞いてたよ。

 どうしてああ言ったんだい?

 一度、全部売ってしまってもいいんじゃないかな」


その問いかけに私はうーんと悩む。


「あの、まとまってないんだけれど……

 聞いてくれる?」


フレデさんは黙って頷いてくれる。


「私はね、ここに色んな人に来て欲しいなって。

 そんな風に思ったの」


まだここに来てほんの数日。

私がこんなこと言える

立場じゃないってわかってるけれど、

でも、でも私はここにきて感じてしまった。


「寂しいのは……悲しいから」


ガロにも言ったその言葉。

フレデさんが何を思って

日々を過ごしているかは私は知らない。

だけど、いつも寂しそうだった。

私が料理を作ってあげた時、

凄い喜んでくれたけれど、

ああいう顔をもっと見てみたい。

毎日を、一緒に楽しく過ごしたい。


「……ミミ」


だから私なりに考えたのが、

まずは店舗をきちんとすること。

そして色んな人に

来てもらうようにすることだった。


金銭が目的じゃないから、

できるだけ顔を出してもらえるように、

安価で身近な薬を棚には置いておきたい。


「もっとね、賑やかにしたいの。

 魔族も人間も関係なく」


それが、私にとってのフレデ商店での実習だと、

私自身が決めたことだった。


「なるほどね、ミミはそう考えてくれたんだね」


どれだけ私の想いが伝わったかはわからない。

けれどフレデさんは笑って、


「ありがとう」


私の頭に手を置いてくれる。

私はされるがまま、

頭の上の手の感触を感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ