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黒衣を纏いし紫髪の天使  作者: 閻婆
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第34節 《地下の実験施設 材料と化すか、施設を潰すか》 3/5

シドラオとの戦いは続きます。負ければ研究材料にされてしまうのでどうしても4人は勝たないといけません。そして私事の方ですが、実は一応は絵画の方も微妙に触ってまして、将来的にはキャラを絵にするつもりでもあります。








            シドラオとは、緑の体色を持つ怪人の(たぐい)である


            人間と比較して、異様に左右に広い口も特徴的だ


            しかし、シドラオにとっての敵である4人は引き下がる事は無かった


            意気込みを認めたであろうシドラオは、突然その場で自身の両腕を足元へと落とし……








「そろそろお前らの泣き喚く姿とかも見たくなってきた頃だ。こいつらがそうさせてくれるはずだぜ?」


 シドラオが足元に落とした両方の腕は、その場で8本の突起を生やし、そして腕そのものを胴体にするかのように立ち上がる。


 そしてシドラオ自身は腕が無くなった肩の関節部分から再び両腕を生やしながら、対面する4人に対してこれから何を求めるのかを口に出す。




「それがお前の本性ってやつか? 寧ろこっちも楽しくなってきたわ。感謝してやるよ、ある意味、な?」


 本人の性格を充分に表していると言えるような赤い髪の少女であるルージュは、濃い紫のジャケットに覆われたそれなりに発達した旨の前で、開いた左手と握った右手をぶつけながらシドラオの次の戦法を期待したような態度を見せる。


 無駄に1つ1つ強調するように、区切るような言い方も見せつける。


「虫はちょっと気持ち悪いけど……アタシだって魔物でそれなりに慣れてるからそれで勝てるとは思わないでよね」


 黄色を帯びたレンズの眼鏡を着用した青い髪の少女であるサティアも、ルージュに後れを取る訳にも、ましてや足手纏いなんかになる訳にもいかないと意識したからか、強い心を態度で見せつけていた。


 水の短剣を握る手の力は確かに強かったが、8本脚の物体に変形したシドラオの両腕には嫌悪感を完全に隠せずにはいられなかったようでもある。




「実質的に4対3みたいなものだから私達がまあ有利だとは信じたいですけどね?」


 最初に口を開いた少女2人も形は違えど戦う意思そのものは共通するものがあったと言える。そして続く形でリディアも、結果的には自分達が無事に勝利を収める事を前提にするかのように黒のマスクの裏で若く透き通った声を皆に聞かせた。


 黒の儀礼服のような戦闘服で誰よりも強く身体を保護しているからこそ、心の強さも皆より上なのだろうか。


「リディアは冷静に優勢かどうかの分析かい? まあわたしも人数の件には同意だよ」


 声だけは壮年の女性を思わせるものだが、姿は人間である3人、サティアのみ竜の血を引いてはいるが、マルーザのように影をそのまま人型にしたような赤黒い肉体と、口や鼻が直接見えない深紅の双眸のみの容姿と、そして下半身の存在しない上半身だけで浮いた形でそこにいるような極端な外見はしていない。


 4人の中で最も人間から離れたような外見を持っているマルーザも人数だけであればこちらが優勢であると認めているらしい。尤も、それは実際に戦わなければ分からない話ではあるが、両手にそれぞれ持った氷と炎のヌンチャクは戦闘で見かけ騙しの光景を見せないと信じたいものだ。




「ゴチャゴチャ喋ってる場合じゃねえぜ? こいつらがお前らん事ベトベトにしてぇとよ?」


 8本脚の生物、というべきなのか、2体のその外見を持った物体に変化させる為に自ら胴体から分離させた両腕を、シドラオは再び生やすように復元させながら、この2体の戦法の1つだったのだろうか、それを明かすように喋る。しかし、中身は考え方によっては女性の相手が特に嫌がる形なのは気のせいだろうか。


「喋ってないのになんでそんな事分かんだよ? 勝手にお前がそう決めつけてるだけだろ?」


 言い返したのはルージュであった。尤も、相手は決して勝敗の話を持ち出した訳では無かったのだが、ルージュとしては純粋に身体に粘着性のある分泌物を吐きかけられる事すらしないと断言したかったのかもしれない。仮に命中したとしても、それで勝手に負けを認めるつもりも無いのだろう。




「お前、随分挑発的な事ばっか抜かしやがるなぁ? スキッドに会う為に心の準備でもしてるか? じゃあそんなもん潰してやるよ!」


 やはりシドラオとしては赤髪のルージュの事が特に印象に残ってしまっているのか、やはりスキッドという自分達が現在捕虜としている人間と直接の繋がりを持っているからこそ、少しの発言でもシドラオに鋭く突き刺さるのだろうか。


 しかし、スキッドとの関わりがあったとしても、ここで特別な扱いをする気は無いと断言してしまう。これからの戦いに対する(こころざし)だけでは無く、生命そのものも破滅させてやる気でいるのだろうか。




――手首のスナップを利かせるように指を差し……――




「行け! お前ら!」


 4人の敵対者に向かって指を向けたまま、シドラオは元々自分自身の両腕そのものであった2本の腕に命令を飛ばす。


 8本の突起を生やしたもう生物と呼んでも差し支えないであろう腕の物体は無言で走り出す。目的は勿論、4人だ。




「次の出し物がわたしらに通用するか、試してやるからね?」


 いつでもかかって来いとでも相手に伝えたかったのか、マルーザは右手のヌンチャクを回しながら炎の力を微小ながら散らせ始める。派手に散らせばまだ近くにいる外の仲間に浴びせてしまう事を考えての事だろう。


 だが、ヌンチャクは近づいてくる腕の物体に対しての準備が万全になっていると言えるだろう。


「黙らせて通用しないって事伝えてあげましょうね?」


 リディアもすぐに右手から氷の刃を生成させ、迎撃の為に備え始める。真っ直ぐ向かってくる物体は体当たりを意識しているのか、本当に走る様子しか見せていなかったが、突撃される事自体に痛みを伴うのは確かである。


 至近距離に来られた時にまた異なる行為を始める事も意識しながら、氷の刃を握る右手の力を決して弱めはしなかった。




「来るわね? ベトベトって言葉がちょっと気になるけど……」


 サティアもリディアのように手から水の力を宿した短剣を出現させるが、リディアとは異なり、エナジーリングでは無く魔力を扱っているようだ。


 たった今シドラオが言った特定の攻撃を想定させるような表現が僅かに嫌悪感としてサティアの脳裏を走ったが、弱々しく考えている場合では無いと、膝下までの丈のあるロングスカートの中で脚を開き、力を充分に込められるような体勢を用意する。




「スキッド……必ずお前んとこ駆けつけてやるからな!」


 今そこにいない大事な相手を思い浮かべながら、ルージュは自分の目の前で突起を巧みに使い立ち上がった腕の物体に対し、右手を握り締めながらそれ相応の対応をしてみせた。それはメイン且つ自慢の攻撃でもあったと思われる殴打そのものだ。




――炎を纏った拳が物体に直撃し……――




「お前は邪魔だ!!」


 恐らく腕の物体は、立ち上がるような体勢からそのまま脚の機能を持った突起でルージュを締め上げようとしたのだろうか。


 しかしルージュの炎の力も付加させた殴打が腕の物体の接近を許さなかった。力に敵わなかった腕の物体は仰向けに地面に倒れ込んだが、隣にいたサティアは警戒の目付きを解く事をしなかった。


「ルージュ! 分かってると思うけど邪魔だって言われて黙る気無いみたいよ?」


 サティアの視界が捉えたのは、腹部と表現しても良さそうな腕の中心部の異変であった。ルージュに殴られるまでは地面に向けていた方向であった為、腹部と見ても良さそうであるが、今起こっている異変とは、胴体として機能している腕の中心部が小さく膨らみ、そして内側から何かが突き出そうとしているかのように凹凸を見せていた事であった。




「それは見りゃそうだろうけど、腹からなんか出す気……なのか?」


 腕の物体の腹部を見たルージュでもすぐに物体の異変を把握する事が出来たようだが、内部から突き破って現れるとしか考える事が出来ず、それを気持ち悪い物を見るような表情で凝視していた。


「普通に出す気……ってなんか出てきたわよ!!」


 何かが突き破って現れるという事はもう確定でもさせたかのような言い方で決めたサティアであったが、それが現実となったのが今である。




――腹部から無数の突起が突き破るように現れる――




 腹部を突き破って現れたのは、元々生えていた8本の突起と同じような質感と色の突起であり、それは一気に伸縮性を増幅させたかのようにルージュ目掛けて伸ばされた。


「うっ!! こいつわたしの事好きなのか!?」


 腕の物体の中心部から伸びた突起は数本が束となり、それが素早くルージュの両方の手首をそれぞれ2本で掴んでしまう。引っ張られている事をすぐに理解したルージュは、腕の物体の場所に引き寄せられれば何をされるか、嫌な予感しかしなかったからか、必死に腕の物体から離れるように背後に向かって力を込める。


「違うと思うけどね! ルージュから離れ――」


 腕の物体がルージュに好意を抱いているなんてとても考えられなかったサティアであったが、本来のあの物体の目的を予想という形で説明するよりも先にまずは突起を切り離す方が良いかと、すぐに持っていた水の短剣を振り上げるが、腕の物体が元々生やしていた突起が黙っていなかった。




――足として機能していた突起がサティアの顔へ放たれ……――




――ドスッ!!


「!!」


 サティアは顔を横殴りにされてしまい、鈍痛によって体力と精神力を著しく奪われてしまう。腹部としての役割をしていたであろう腕の裏側を見せたまま、そしてルージュの両腕を押さえつけたまま、空いていた突起を利用し、水の能力を扱う少女に暴力的な一撃を提供したのだ。


 ふらつくサティアの様子を、ルージュは横目で確認していた。


「サティア! ……お前は掴んで何するつもりなんだよ!!」


 元々サティアはルージュとは異なり、武闘派では無い体格である事を把握していたからか、顔を殴られた事でそのまま耐え切る事が出来るのかが不安になったのかもしれないが、しかし力を込めた所で突起を引き剥がす事がまるで出来ず、目的を聞き出すかのような言葉を反射的に放ってしまうが、引っ張り合いを続けても現状が続くままだと考えたからか、次の対策を開始する。




「今燃やして泣かしてや――」


 引っ張る力を弱めてしまうと腕の物体に引き寄せられてしまう為、力は弱めずにそのまま両腕に炎のエネルギーを溜め始める。熱で突起の方から距離を取らせようと計画したのだろう。


 しかし、腕の物体はルージュの思い通りにはさせてくれなかった。




――ルージュの腹部に突起の先端が放たれる――




「いっ!! ……こんなんで……誰がやられ――」


 呼吸が詰まるような鈍い痛みが腹部に入ってしまったルージュであったが、腕から突起が生えただけのよく分からない物体に負けるなんていう恥晒しは絶対に出来なかったからか、両腕の自由が無い状況も変わらないまま、一時的に妨害されていた呼吸を再び再開させながらも強がって見せる。


 しかし、腕の物体はルージュに対して伸ばしていた腹部からの突起を引っ張る事で、ルージュを自分の元へと引っ張り寄せるのでは無く、自分がルージュの場所へと引き寄せられるかのように、地面に位置させていた自分の胴体をそのままルージュ目掛けて動かしてしまう。それは実質的にルージュとの距離を極限まで縮ませる行為に他ならない。




――腕の物体はルージュに一気に飛び掛かり……――




*** ***




「しつこいけど……っ!! 頭は良く無さそう……かな!」


 リディアはルージュ達に襲い掛かっている物体とは別の個体を相手にしているが、上体を持ち上げながら突起でリディアに掴み掛ろうとしていたが、両手から出現させた氷の刃で受け止められている所だった。しかし、力では物体よりも(まさ)っていたからか、徐々に押し出す事は出来ていたようである。


 そして、胴体部分が隙だらけであった為、蹴撃でこのまま距離を取らせてやろうかとも考えていたようでもある。


「リディア! 悪いけどこっちからもやらせてもらうよ!」


 リディアから見て、腕の物体を挟むように反対側に位置していたマルーザはまるでリディアをも巻き込んでしまうような攻撃を開始しようとでもしていたのか、一度リディアに声を渡し、身を守るように気持ちを引き締めさせようとした。




「いつでもオッケーですよ!」


 この時にはもうリディアは物体を引き剥がす事が出来る所にまで進んでいたようで、左手の方では武器を動かす自由も出来ており、マルーザへの返答を言い切るとほぼ同時に相手の右側に存在していた突起数本を切断してみせた。


「了解だよ。じゃ、少し火炙りにでもなりな!」


 右手のヌンチャクを炎で包みながら、マルーザは物体の背後からヌンチャクで殴り掛かる。




――腕の物体の胴体部分が炎で包まれ始める――




 しかし、炎に包まれてもまだ戦意を喪失していなかったのか、無理矢理に残った突起をリディアに伸ばす。場所は腰であった。


「!!」


 まともに言い返すような言葉も出す事が出来なかったのかもしれないリディアであったが、腰を掴んだ突起の力がこれから非常に強く働く事を察知し、そして突起の思い通りにされるしか無かった。


 腕の物体はリディアを力任せに横に向かって投げ飛ばしたのだ。目標は意識していなかった様子だが、リディアにとっては無視出来る事では無い。




「うわぁ!!」


 強引に距離を離されるかのように、無計画に、そして単純に力任せに投げ飛ばされたリディアであった。身体の向きを荒らされるように投げられたせいで足からの着地は無理であった。


 身体を地面に打ち付けるような形となったが、リディアも出来る限り受け身を取りながらも身体を打ち付けた痛みに多少表情を歪ませながらも、立ち膝の状態からすぐに立ち上がる。


 リディアから距離を無理矢理離した腕の物体は手当たり次第だったのか、自分を炎上させた張本人であったマルーザを狙い、突起でビンタでもかますかのように大きく胴体を振りかぶっていた。




――回避自体は容易だったはずだ――




「当たると思った? 無理だよ」


 マルーザは元々影のような肉体をその場で消滅させる事で、突起を束ねた大振りなビンタを回避してしまう。


 突起が通り過ぎたと同時に再び実体化させ、振りかぶった状態の隙だらけになった物体に今度は左手に持った氷のヌンチャクの一撃を食らわした。




――即座に物体の身体が氷に包まれ始める――




 腕の物体は氷の膜に包まれていく。時間の経過と共に徐々に表面が氷に支配されていくが、腕の物体はそれで終わりでも無く、諦める様子も無かったようだ。


 腕の中心部から新しい突起を突き出させ、そして同時にリディアに先程切断された元々本体から伸びていた4本の突起も再び生やす事で復元させていた。


 そして、中心部から伸ばした突起を使い、身体に貼り付いていた氷を引き剥がしてしまったのだ。氷は突起が伸びた部位の丁度反対方向に張っていたが、突起は柔軟性に富んでいるからなのか、起用に反対方向にまで数本纏めて伸ばし、湾曲もさせながら氷の膜を力任せに引き剥がしたのだ。


「無理矢理剥がした……ん?」


 マルーザも腕の物体が突起を生やした事も、氷を引き剥がした事も目にしていたが、引き剥がした氷を武器にされてしまうとまでは考えなかったのだろうか。




――引き剥がした氷を叩き付けてきたのだ――




「裏目に出たか……」


 マルーザは自分で発生させた氷を逆に武器として使われる事に対し、自分の攻撃手段の甘さを恨んだが、自身を守る事にまずは意識を集中させる事を決めた。


 両腕で顔面を防ぎ、過度な衝撃にまず耐える事の出来ないであろう薄い氷に備えた。


 暴力的にマルーザ目掛けて叩き付けられたが、氷自体はやはり薄い事もあって、耐久力はそこまで強くなかったようであり、派手に割れる音を響かせながらマルーザの周囲に欠片となって散らばった。




「なかなかやるねぇ? それで終わりとは思わないからね?」


 氷で叩き付けられたとは言え、マルーザにとってはそれは重傷とは程遠いものであったようで、頭や肩に残った氷の欠片を身震いで払い落しながら、次の攻撃を待ち望むかのように、言葉を返してこないであろう腕の物体に対して敢えて言葉を飛ばす。


 それに応えたのかどうかは分からないが、腕の物体は中心部をまるで風船のように膨らませる。ピンポイントに膨らんでいくが、皮膚の内部で濁ったものが一瞬見えた為、それが自分にとってマイナスの方向へ持っていく存在となるのが容易に想像出来てしまう。




「おっと、次は汚い攻撃で来るのかい?」


 先程の氷の膜という打撃で攻める形とは違う方向で襲ってくる事を読み取ったマルーザであったが、両手を胸部の前に持ち上げて防御の体勢をいつでも作る事が出来るようにしていた。そして生物が膨らませていた部分はやはり想像の通りに破裂し、内容物がそのままマルーザへと向かっていく事に。液体と、そして細長く小さい物体が、である。




*** ***




「派手に投げてくれるなんて……。まいいや、戻ればいいだけだし」


 投げ飛ばされたリディアであったが、出来る限りの受け身を取ったおかげで過度な痛みを受けなかったようであり、余裕のある表情と足取りで立ち上がり、シドラオが切り離した両腕そのものと戦っている3人の元へとすぐに戻るつもりでいた。しかし、横から仲間として存在するはずの無い男の声が届けられた。


「おいおいお前ぼっちになったのか? 俺が遊んでやるぜ、付き合え」


 それは元々敵対しており、そして尚且つこの空間の管理者のような存在であり、殲滅させるべき存在でもあったはずだ。まるで仲間外れにされ、単独で路頭に迷っている人間に助けを差し出すかのような言い分であったが、相手は味方では無い。




「ん? あんた……!!」


 リディアは聞き覚えのあったその男の声に対し、当然誰が喋りかけてきたのかを理解した為にそれ相応とでも言うべきかやや威圧感のある態度と返答を見せようとしたが、相手は既に真横におり、振り上げていた右腕を決して見逃す事は無かった。




――腕の先端は斧のように変化(へんげ)していたのだ――




「おっと!」


 真後ろに飛び退き、リディアは斧の一撃を回避する。直撃したらどうなったか、それは地面に突き刺さった斧の形状をした腕を見れば一目瞭然だ。


 地面からあっさりと引き抜いたシドラオは再びリディアに単独である事を妙な意味で宥めるかのような事を浴びせ始める。


「やっぱ避けたか。まあそりゃ死んだらあいつらから仲間外れんされちまうもんなぁ?」


 地面を小規模に割った、斧の形状をした右腕を持ち上げながらシドラオは当たらない事が初めから前提であったかのように横に異様に広い口で笑い顔を作り出す。最初にこの場で命を失う事がリディアにとって本望では無い事も何となく読み取っていたようだ。




「誰があんな鈍い攻撃当たるかっつの! それと今もずっと仲間外れなんかにされてないからね!」


 リディアからすれば今の斧の振り下ろしなんて直撃する方があり得ない程の精度の弱い攻撃だったようであり、右手に持った氷の刃の先端を向けながらリディアはまだ孤立なんてしていないと強く言い切った。


「これからどうなるか分かんねぇぞ? ここで実験体になりゃ仲間外れんなんだろうよぉ?」


 シドラオは強気な表情を見せてくるリディアに対し、この場所で言葉の通りの改造の対象となれば表にはもう出る事が出来なくなるのだから、他の者達と同じ生活が不可能になると恐怖を誘うかのようにわざと声色にドスを利かせる。




「いや無理だって。あんたは誰も捕まえられない……おっと!」


 黒のマスクの下で笑いを多少漏らしながらもリディアは理由等がどうであれ、シドラオの思う通りになるつもりは無いと、左腕の異様な動きもまた見落とす事をしなかった。




――左腕の先端がリディアへと発射されるが……――




「直接捕まえようとした? でも無理だよ?」


 シドラオは左手をリディア目掛けてまるで衝撃の作用でも利用したかのように飛ばし、そのまま命中させようとしたようだが、リディアには見切られていた為、右に転がるように回避されてしまう。


 回避の後に立ち上がったリディアから言われたのがこれだ。真正面から捕獲しようとしても無駄なようである。


「捕まれよ? お前の力もっと増幅させてやるのによぉ?」


 伸ばした腕を自分の身体へと戻しながら、シドラオはもうこれで何度目なのだろうか、自分の実験の対象として選ばれるように誘ってくるが、リディアの表情は当然好意的なものにはならない。




「あんたにやられなくても自分で鍛えるよ? 所で……」


 改造によって強さを手に入れるなんて事はしたくないと自分の主張を曲げずにいたであろうリディアだったが、改造自体されてしまえばもう普段の生活に戻る事も出来なくなるのだから、尚更否定の意識は持って当然のはずだ。そして聞き出したい事があったようだが。


「どうせスキッドとか言う奴の事だろ? 皆興味あんだなぁあいつに」


 シドラオはリディアから余計な話を要求されない事を理解していたからなのか、相手が内容を要求してくる前に何を聞こうとしているのかを勝手に当ててしまう。


 あの人物がここまで関心を持たれている事に何だか疑問にすら感じ始めてきた様子でもあった。




「勘がいいんだねあんたって。それもそうだけど、なんかビスタルっていう奴とそこまで繋がりたい理由って、あるの?」


 リディアはスキッドの事を個人的にも聞きたいと思っていたのかもしれないが、その前に別の者の名前がふと脳裏を(よぎ)った為、あの連中の仲間になる事を求める動機をここで聞き出したいと思ったのだろうか。今はリディアの攻撃の手は止まった状態だ。


「それは俺に勝ってからだって言ったろ? ここでくたばるお前に最初に言って……」


 シドラオが勝手に決めつけたであろうルールを再びここで持ち出しながら、意味有り気に両腕を顔の前にまで持ち上げる。




――今度は両腕を斧の形状へ変質化させ……――




「どうするよぉ!!」


 5本の指の生えた人間の手と同じ形状をしていたその部分は突如斧の形状へと形を変え、リディアへと走りながら接近し、両方が斧の形状となった腕2本で挟み込むように力任せに振った。重量の関係なのか、先程の片腕での攻撃に比べれば随分と遅い攻撃であった。


 リディアは真上に跳躍を決め、シドラオの攻撃を空振りさせてしまう。


「あぁそうかい!! でもあんた倒したら喋んなくなるとも思うけどねぇ!」


 跳びながらとりあえずは言い返すリディアであったが、着地場所をシドラオの頭部へと確定させ、右手に握っていた氷の刃の先端を真下へと向けながらそのまま落下する。




――肩を目掛けて派手に突き刺す!――




「お前やりやがったな!」


 肩から突き刺さったリディアの氷の刃であったが、ほぼ地面と垂直な角度を見ると骨にまで達しているとしか思えなかったが、それでもシドラオは気力をまるで失わせていない口調で間近にいるリディアへ怒りの態度を見せつけた。


 リディアは現在、シドラオの突き刺す標的にしなかった方の肩と、僅かな凹凸の存在する胸部に足を乗せている状態だ。尤も、身体の支えの殆どは突き刺したままの氷の刃を握る右手に任されていたと言えるが。


「バイバーイ! でもその感じじゃ致命傷にはなってないか……」


 しかし、リディアはすぐに次の行動へと移る。シドラオの怒りそのものを(あざ)笑うかのような別れの挨拶と同時に、エナジーリングの力を駆使し、その場から消滅し、シドラオから距離を取った真正面の位置に姿を出現させた。シドラオは自分の上半身に乗っていたリディアを掴みかかろうと、腕の形状を斧から手に戻した上で自分の頭部辺りに腕を伸ばしていたが、失敗していた。




「俺に忘れもんするなんていいどきょ――」

「それオマケだから」


 シドラオは左肩に刺さったままの氷の刃に気付き、自分の武器を相手に突き刺したまま離れたリディアに戦いの隙や愚かさを思い知らせてやろうとしたようだが、リディアは敢えて刺したままシドラオから離れただけだったようだ。右手の指を2本だけ立て、その合わせた人差し指と中指の先端をシドラオへと向けた。


 同時に忘れてきた、では無くわざと放置した自分の武器に異変が発生する。




――握っていた氷の刃が破裂する――




 冷気の破裂とでも言うべきだろうか、肩に突き刺さっていた氷の刃は破片を散らしながらシドラオの体勢を大きく崩させる。


 衝撃そのものはシドラオには負傷を与えたのだろうか、それでも本人は平然としていた様子ではあるが。




「痛ってぇなお前やりやがったなぁ!!」


 言葉の通り、衝撃そのものは身体に強く響いたのか、痛みを無理矢理苛立ちに変えながらリディアに怒鳴り散らす。左肩を右手で押さえており、もしかすると今のが弱点を狙う方法となっていたのだろうか。


「感情的になった? もしかして負け始めてる事に気付いたの?」


 リディアはもしかすると破裂系統の攻撃に弱いのかと悟り始めたが、やはりシドラオはややだらしなく傾けていた身体を再び真っ直ぐに伸ばし、まるで違う誰かに声をかけられたかのように明後日の方向に一度顔を向けた。




「へっ! そろそろさっき捕まえた女の改造が終わったみてぇだ。お前もあいつみてぇになるって事教えてやるよ?」


 それは先程この空間に初めてリディアが訪れた時に出会った、ベッドのような設備の中に収められていた少女の事だろう。しかし、シドラオの言い分に嘘があるとは考えられない為、完了したという話は事実と見て間違いは無いはずだ。


「どうやって連絡受け取ったの? それと私の事改造する事に随分拘ってるみたいだけど?」


 少しだけリディアはシドラオが無線機等の機具も一切使用せずにどのように情報を受け取ったのかが気になった様子であるが、改造に関してはリディアはまるで興味等持っているはずが無く、被験者になる事を特に望まない事である。




「これはオマケだ! もうすぐ来るからこれで遊んでろ!」


 シドラオは連絡を受け取った方法を説明する訳が無く、それ所か自分の両腕を再び分離させながら、それをリディアの足元へと投げつけた。シドラオから分離された腕であったが、リディアは先程の光景を覚えていただろうか。


「何いきなり投げつけてく……ってこれって!?」


 リディアは自分の身体の一部を自分目掛けて投げつけてきた事に最初は戸惑いを見せていたが、足元に投げつけられた両腕がすぐに動きを見せ始めた為、すぐに警戒と反撃の体勢に入った。




――両腕は蛇のようにリディアへと近寄ってくる……――




「またあのやり方!? 気持ち悪っ!!」


 リディアのニーソックス形状のブーツに巻き付いてきた、元々は腕だったその物体をすぐに引き剥がすべく、右手に電撃の力を溜め込み、それを左脚に巻き付いていた物体に接触させる。


 激しい電撃音と共に物体は痙攣し、巻き付く力も失わせてしまう。そしてリディアはそのまま左脚を蹴り上げるように前へ振り上げ、物体を宙に浮かせる。


「じゃあね!!」


 宙に浮いた腕の物体に最期を与える為に、リディアは瞬時に右手から氷の刃を生成させ、1体目の腕の物体を真っ二つにしてしまう。


 横から切断された腕の物体はそのまま地面へと落下し、そのまま動かなくなる。




――残るは1体だ――




「じゃあ残り1匹……どこ行った……?」


 足元をうろついているのかと疑い、低い場所に視線を集中させるが、いるのは既に切断されて動かなくなった腕そのものだけだ。


 まだ絶命していない腕がまだ1本残っているはずなのだが、視線を激しく左右に動かしても見当たらなかった。


「あれ? どこ行ったの!?」


 地面にはいなかった。羽は無かった為、宙に逃げたとも考えられなかった。しかし、本当に姿が見えなかった。




――僅かに空間が揺れた――




 目の前での出来事であり、何も無いはずの空間が揺れたのは事実であった為、リディアは今までの戦闘での経験からだったのか、即座に顔面を両腕で保護する。まるで空間を割るかのように真っ直ぐ飛んできたのは、それは緑に染まった拳そのもので、当然それは殴打を意味する動きであった。




「!!」


 顔面を保護したリディアの両腕に真っ直ぐ突き出された拳は本来であればリディアの顔に命中するはずだったが、リディアのガードによって防がれたのは事実である。しかし、身体をよろけさせるのに充分な威力も存在しており、上体が後方へと反れたその時こそが相手にとってもう1つのチャンスとなってしまったようだ。


 状況を直接目視していなかったリディアであったが、明らかに何かが自分の両方の足首を掴んできた事だけは分かったが、だからと言って即座に対処をする事は出来なかった。


 足首を掴まれると同時にリディアは腕ごと顔面を覆い尽くされてしまい、上体の方は無理矢理に押し込まれるような力を加えられ、そして両足に関しては……




――突然前に向かって引っ張られてしまう――




 視界を覆われていたせいでリディアは何も目視する事が出来なかったが、身体の支えを失い、背中からそのまま倒される事だけは自覚した。


「!!」


 喋る余裕も何も与えられず、背中の鈍痛を残させられたままで、恐らくはリディアの両脚を引っ張ったであろう腕の物体はそのままリディアの足首を地面に固定させてしまう。自分の身体をリディアの足首を巻き込むようにして地面に密着させたのだろうか。


 足を動かす事が出来なくなった状況であっても、痛みで目を閉じている場合では無い。痛みに耐えながら青い瞳を開くリディアであったが、目の前で持ち上げられていた腕の形をした物体が存在した。


「ヤバっ!!」


 地面に倒れた相手を上から殴り掛かるかのように腕の物体は拳を握り締め、恐らくは根本がリディアの両足を押さえつけていると思われるが、リディアはただ腕で受け止める選択肢を選ばず、目の前で氷の防御膜(バリア)を作り、そして上から落とされた殴打を決めた拳を受け止める。




――殴り掛かった拳は防御膜(バリア)によって受け止められ……――




 そして本来はリディアに命中させるはずだった、腕の物体による拳は氷の膜に張り付いてしまい、そこからもう引く事が出来なくなったのだ。ただ追い詰められているだけでは終わらせないのがリディアなのか、腕を引く事が出来なくなっている、腕そのものだけで動いているその物体に対し、リディアはまだ上体を起こしていない体勢のままで両手で敵対する物体に乱暴に掴み掛る。掴む直前には大量の電撃を両手に蓄積させていた。


「さて、そろそろ終わってくれる!?」


 激しい電撃音が腕の物体を中心に響き渡り、物体そのものも痙攣させながら徐々に様々な部分で力を失わせていく。リディアに押されるかのように氷のバリアから離れていくのと同時に、リディアの足を押さえつけていた根本の部分からも力が抜け始めていた。


 上体を起こしながらリディアは徐々に弱っていく腕の物体に最期を仕掛けようと、足の拘束も意味を成さなくなっていた部分も見逃さず、すぐに両足を引いてすぐに立ち上がり、そして、力任せに腕の物体を両腕で抱えるように持ち上げ、そのまま自分の頭上目掛けて投げ飛ばす。




――即座に氷の刃を右手から出現させ……――




「じゃあね! これでおしまいだよ!!」


 宙に投げ出された腕の物体は、リディアの氷の刃によって瞬時に真っ二つにされてしまい、そのまま機能を停止させる事になる。リディアに殴りかかろうとした腕の物体であったが、目的は達成出来ず、あっさりと終わりを迎える事になったのだ。




――仕留めた直後に、仲間の声が届けられる事になるが――




「リディア! 1人で戦ってたみたいだなぁ! こっちはもう片付いたから協力してやるぞ!」


 リディアの横から強気な口調が特徴の少女の声が飛んでくる。それはルージュのものであり、駆け足で近寄ってくるその少女の横にはもう1人の少女と、そして下半身の存在しない特殊な身体構造の女性もいた。どうやら3人ともリディアの相手していた腕の物体とは別の個体達との戦いを完了させたようだ。


「けっ! あいつら平気な顔してやがるか……」


 シドラオはリディアが自分の分離させた腕に蹂躙されようとしていた所を眺めていただけだったが、リディアの仲間達が危機を乗り越えてしまっていた事を思い知らされた為か、余裕のある表情でやってきた者達を見て舌打ちを行なった。


 しかし、その目は何かを待ち続けているかのように、妙に左右を確認するかのように揺れ続けていた。




「ん? あぁルージュさん達ですか!? そっちは無事だったみたいですね!」


 ルージュの声に反応したリディアは再び仲間達と揃う形で戦う事が出来ると安堵の表情と希望に溢れたような口調でルージュ達に向きながら自分の声も渡すが、背後の地面の様子には気付いていなかったようだ。




――リディアの背後から大量の触手が出現し……――




「後ろよリディア!!」


 他の者達も驚いたのは確かだったはずだが、最初に声を張り上げたのはサティアであり、背後に全く意識を注いでいなかったリディアに叫んだが、まだリディア本人は気付いていなかった。いや、振り向いていなかったと言うべきか。


「え? 後ろ?」


 突然後ろを見ろと叫ばれたリディアであったが、無音であった為、背後の危機感に全くの無自覚であり、しかし言われた以上は確認すべきなのかと、ふと背後を振り向いた。




――細くも複数伸びていた桃色の触手がリディアに接触した――

腕そのものを相手にリディア達はこれからどうするんでしょうか? 戦いはもう少し続きます。

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